“庶民人気”に配慮せざるを得ない習近平

「中国は一党独裁だから世論の反発を気にせず大胆な決断ができる」「過去の金融危機を教科書にできるのが強み」とよく言われるが、いまの中国を見ていると、本当はどうなのだろうかとクビをかしげてしまう。

ここまで見てきたとおり、中国の不動産バブルは新型都市化政策の副作用という側面が強い。中国共産党も問題を知っていたからこそ政策を転換したのだが、その時点で不動産企業の過剰債務問題を、税金を投入してでも解決していれば被害は小さかった。現実はというと、前述の図表2で示したとおり、遅れた分だけ問題は拡大している。そして、いまにいたっても不動産企業に責任を押し付け、根本的な解決から目を背けている。大胆な決断もなければ、過去の金融危機解決の教訓も見られない。

それはなぜか。

実は中国にもポピュリズムがあり、政権は世論を大いに気にしている。特に習近平総書記は歴代総書記以上に庶民人気に配慮している。政権発足以来、汚職官僚退治や官僚の浪費排除、そして「共同富裕」やIT企業規制で金持ちや大企業を締め上げる正義の指導者としてのイメージを構築し、庶民人気を後ろ盾として“皇帝”としての地位を固めてきたという経緯がある。

国民から生活の自由を奪うゼロコロナ対策の失敗と景気悪化によって、その人気に傷がついたタイミングで、今度は成金不動産デベロッパーを税金で救うなど、絶対にやりたくないのだろう。

不動産危機は習近平体制を揺るがしかねない

この世論への配慮は命取りになりかねない。エコノミストの多くは「正しい対応ができれば、中国経済は今回の危機を乗り越えられる」との見立てで一致しているが、「正しい対応」が絶対条件だ。ずるずると長引かせれば話は変わってくる。

株式市場で株価チャートを下げ、赤いマイナスの領域に入った中国の景気低迷のイメージ
写真=iStock.com/ronniechua
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習近平総書記は少なくとも2032年までは指導者であり続ける算段のようだ。習近平総書記は2007年の党大会で中国共産党の最高指導部である常務委員となり、実質的な次期トップとしての地位を固めた。現在、後継者は見当たらない。2027年の党大会で後継者が選ばれれば2032年で交代、選ばれなければ習近平体制がさらに長期化するシグナルだ。

ただ、これはあくまでアクシデントがなかった場合の話である。経済失政、人民の不満の高まり、社会秩序の混乱といった事態が深刻化すれば、超長期政権への批判は強まる。今の不動産問題に「正しい対応」ができるか否かは、政権そのものの未来を揺るがしかねない問題となりつつある。

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