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あなたは現在の会社で働きがいを感じていますか

ある土地に何人かの人間が住むとする。彼らはみなで仕事を分担し、畑を耕し、山で木を伐り、川から水を運んで生活する。また、彼らはその生活をより便利に、豊かにするために道具を発明し、環境を人間の暮らしやすいものに改良していく。その世界では労働は彼ら自身のもので、人々は自ら計画を立て、日々の生活をより楽しくするために働いている。そして成果を自分たちで享受し、仲間とともに喜びを分かち合う――。

理想像ではあるが、労働には本来こうした喜びの要素が十分に備わっている。問題は私たちがそのような労働本来の喜びに対して、目を向けることが少なくなっていることだろう。

塾の行事はまさしく、共同作業の「喜び」が生まれる場であった。塾生の成長、彼らのいきいきとした表情や可能性。彼らとの対話やともに工夫し、何かをつくり上げていく感覚……。

私にとって塾の仕事は次第に楽しみなものへと変わっていった。それは単にお金を稼ぐための手段として私塾の活動を捉えていた私が、仕事そのものの中にある面白さ、楽しさに気付いていく過程でもあったと言えるだろう。

たとえどのような仕事でも、企業がどんな「働き方」を求めていようとも、労働の持つ本来の喜びが消えてなくなることはない。ともに働く同僚と気持ちが通じ合ったり、自ら創意工夫をしたりする喜び。それが人間にもともと備わった感情である限り、仕事に対するやりがいは必ず見つかるはずだ。そこからは、喜びを抑えかねない管理体制への抵抗も生じてくると思う。

哲学者 
長谷川 宏 

1940年生まれ。著書に『新しいヘーゲル』『高校生のための哲学入門』、訳書にマルクス『経済学・哲学草稿』、ヘーゲル『精神現象学』など多数。
(構成=稲泉 連 撮影=永井 浩)
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