そしてポイントは、このことを企業側から見ると、数万人単位のエントリー数を抱えている(大手)企業はそんなに珍しくないということなのである。考えてもみてほしい。似たような内容のES(企業が学生に最初に書かせる応募書類。一般的な履歴書に書くような項目のほかに、「志望動機」「自己PR」「学生時代に力を入れたこと」「弊社でやってみたいこと」など、その企業独自の項目があることが多い。)が数万通くるのである。知名度の高い優良企業になればなるほど多い。そうした企業では、人事部員以外にも多くの社内助っ人を頼んで、寝ずの状態でESを評価すると聞く。
つまり、インターネット採用によって発生した、多くの企業にとっての大問題は、数万人のなかから、どうやって面接対象者を絞り込むのか、なのである。上記平野氏の論文は、この対策として一部の企業において使われる方法として、ターゲット大学やゼミを決めての絞り込みがしばしば行われることを示している。一時、不問になったといわれる出身大学やゼミが採用基準として復活しているのである。企業側としては、どういう方法を使うにせよ、この状態のなかで、数万人から面接可能な人数に絞り込むための“合理的な”手段を求めるのである。
さらに、ESには皆が同じような内容を書くので、結果として、絞り込まれた人材の多様性が失われ、選抜が難しくなり、また対象人材に多様性が少なくなることも指摘されている。大学等のESの書き方指導が徹底するなかで、いっそうの均質化が進んでいる。企業はインターネット採用の活用で大幅に膨れ上がり、画一化してしまった応募者からどう効果的に面接可能な候補者を絞り込むか、さらにどうやって選ばれた学生の多様性を維持するかということが大きな課題になったのである。
こうしたことが起こった結果、昨年あたりから、いくつかの大手企業で、昔懐かしいリクルーター制(同じ学校を卒業した先輩が後輩を担当して、勧誘と選抜の両機能を担う制度)を復活させたりしている。インターネット採用の限界を克服するためのひとつの動きだと思われる。インターンシップに参加した学生から全体の一部を採用する企業が増えているのも、意欲のある学生に応募してもらい、ES以外の採用ルートを確保する意義があると思われる。