「失われた30年」とは何かを考えるために

その反面、「失われた時代」とは何を「失った」のか、本当に何が起きていたのか、私たちは、どれだけ知っているのだろう。

「新プロジェクトX」制作統括の久保健一プロデューサーは、「どんな時代にも頑張っている人がいることを証明したい、そして2024年の今こそ光を当てるべきテーマがあるはずだ」と、今回の復活の理由を述べている

ビジネス街の横断歩道を行き交う人々
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです

象徴するのは、初回の「東京スカイツリー」である。現場の最前線にいた元日本テレビの根岸豊明氏の著書『誰も知らない東京スカイツリー』(ポプラ社)のように、なぜ、あの土地に、どうやって建てたのかは「誰も知らない」。少なくとも、「みんなが知っている物語」ではない。

番組紹介サイトを見る限りでは、主に「技術者たちの意地の物語」にスポットライトが当てられるようなので、根岸氏のようなテレビ関係者は、あまり登場しないのかもしれない。それでも、今回の放送をきっかけに、何かに打ち込み、何かを成し遂げた人たちの姿に焦点を当てるのは、素晴らしい。

「失われた時代」を経て自信や誇りを取り戻すべきだ、などというアナクロな装いでは、とても番組は支持されない。ソーシャル・メディアで、すぐに評判が出回る世の中で放送する以上、誰よりも番組制作側は、そうした懐古趣味に走らないよう、かなり慎重かつ前向きに努めるのではないか。

みんながよく知る「プロジェクトX」という器に、知られざる「失われた時代」を載せる。NHKを叩いて溜飲を下げるよりも、この時代とは何かを考えるために、しばらくは虚心に番組を見たい。

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