ノウハウが構築されていない「統計教育」の現実
しかし、このような「これまでの数学との違い」に阻害され、10年強経っても「データの分析」を教えることに関してそのノウハウがなかなか構築しきれていない部分がある教員も少なからずいるのではないだろうか。
もともと、(私自身もではあるが)高校時代に統計の授業を受けた教員もほとんどいないという状況である。その上で、今回の教育課程の変更によって「データの分析」よりも発展的な内容を多く含み、また、数学Aにある「確率」も絡んでくる、数学Bの「統計的な推測」を教える必要が出てくることとなったわけである。
例えば、「確率変数を標準化する」といったことについては、それを理解して使えるようにするためには、「データの分析」でも扱う標準偏差が「データのバラツキ度合いを示すもの」であるということの理解が重要になったりもする。
ただ値を求めるために、定義式を覚えるというだけではなく、その値にどういう価値があるのか、どうしてそういう定義にしたのか、といった理解をより深くしていく必要があり、それを教壇で伝えていくことが大切になってくる。しかし、その点が全国的にうまくいっているかどうかは甚だ疑問ではある。
東大入試で「統計的な推測」が必要になる
「統計的な推測」について、大学受験という観点でも見ていく。
「データの分析」が数学Iに入ってきた頃にも数学Bには「確率分布と統計的な推測」という分野があり、センター試験、共通テストの数学でも選択問題として出題があった。しかし、個別試験(2次試験)では多くの大学でこの分野を出題範囲に含めていなかったため、センター試験や共通テストにおいても、この分野を選択する受験生はかなり少なかった。それゆえに、多くの高校などでも「確率分布と統計的な推測」が扱われることはかなり少なかった。
それが、今回の教育課程の変化によって、共通テストでは「統計的な推測」を含む4分野から3分野を選ぶ必要があることとなり、さらに、個別の大学入試では東京大学がこの分野を2次試験の数学の出題範囲に入れてきたことから、今までよりもかなり多くの高校生が「統計的な推測」を学ぶことになったわけである。
こういったこともあり、高校などでも数学でこの分野を教えるようになってきているようである。しかし、先に記載したとおり、「統計的な推測」を教えるノウハウがどこまであるかに問題は残っており、これをいかに向上させていくかが大きな課題である。