なぜ具体例が必要なのか

具体例や事例があることの良さは、文章が読みやすくなるとか解決策がイメージしやすくなるだけではありません。

実は具体例や事例の一番大事な役割は、「自分との距離」を測れることにあると私は思っています。

Aさんは月に10冊読む、朝6時から読むなどと書かれていれば、自分はそれに比べて多い少ない、早起きだ寝坊だ、などの比較ができます。この比較が読者の「自分ごと化」を手伝います。

DXの件も同じです。事例に出てきた会社の話はうちの会社と似ている、ここが違うと比較することで、書籍の内容が自分ごと化されます。

読者に自分ごと化してもらうことは、課題解決の第一歩なので、具体例や事例は大事だと思います。著者本人から具体例が引き出せないときは、著者のクライアントに取材することもあります。

私はライターとして仕事を受ける際は、この周辺取材をよく行います。仕事熱心だと言われたりもしますが、周辺取材をしたほうが楽に原稿が書けるからです。以前、天才肌の著者さんのお手伝いをしたことがあります。

その人がコンサルをする会社は軒並み業績があがるのですが、その手法がどれだけ取材しても私には理解できませんでした。苦肉の策で、その著者さんのクライアントさんたちに何がすごいのかを聞いてまわったのですが、これが大正解でした。

著者のメソッドの素晴らしさを一番知っているのはクライアントです。ときには著者自身が気づいていないメソッドのオリジナリティをクライアントが知っていることもあります。

クライアントのエピソードを載せることで、読者は「自分もやってみたい」「私にもできそう」と感じやすくなります。その著者さんの本もよく売れ、本で紹介したメソッドはその年のビジネス流行語にもノミネートされました。

テクニック④ 形容詞を使わない

とくにビジネス書や実用書では、ふんわりとした形容詞に逃げないことが大事です。

佐藤友美『本を出したい』(CCCメディアハウス)
佐藤友美『本を出したい』(CCCメディアハウス)

「ものすごく喜ばれた」ではなく「参加者の97%が100点満点の評価をした」と書く。「若い頃長期間頑張った」ではなく「19歳から22歳までの間、1日も休むことなくジムに通った」と書く。「みんなに人気の店」ではなく「業界ナンバーワン売上の店」と書く。ビジネス書や実用書では数字が命です。

なぜかというと、先ほど言ったように「読者が自分との距離を測れるから」です。自分と相手との距離を測り始めたらもう、その読者は著者の話を自分ごととして考え始めています。かといって、本筋に関係ない数字や固有名詞を連発すると、読者の脳内はそれを読み解くのにメモリを使ってしまいます。

伝えたいテーマに対して、その数字がとくに意味を持たないときは、むやみに数字を連発しないことも大事です。読者のメモリは文章を読み解くことではなく、文章を読んだことによる思考や行動のためにとっておいてもらいましょう。