自分の気持ちを大切にしながら良好な人間関係を築く方法はあるのか。精神科医の大山栄作さんは「最近注目されているコミュニケーション手法に“アサーティブネス”がある。相手のことを思いながらも、自分の主張を伝えるものだ。アメリカにはこれを意識している人が多い」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、大山栄作『精神科医が教える「静かな人」のすごい力』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

会話をする人たちのイメージ
写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです

注目を集める「アサーティブネス」

最近注目されているコミュニケーション手法に「アサーティブネス」があります。

アサーティブネスは1970年代、アメリカの女性解放運動の中で生まれました。人種や性別、年齢など立場の違いを乗り越え、互いに理解し合うことを目指したものです。

直訳すると「自己主張すること」という意味ですが、一方的に自分を押しつけるのではなく、「相手を尊重しながら責任ある主張や交渉を行うコミュニケーション方法」として注目されています。

ポイントは「相手のことを思いながらも、自分の主張を伝えること」です。そのためには他人を観察する以上に自分を知らなければいけません。自分が何を求めているのか、何をしたら幸せなのかがわからなければアサーティブなふるまいはできません。

つまり、アサーティブネスはテクニック論で語られがちですが、本質は「自分らしさ」にあります。いくらアサーティブにふるまおうとしたところで、「自分らしさ」がなければ、相手に自分は伝わりません。

「自分らしさ」を突き詰めることこそ、このコミュニケーションの目指すべきところであり、自分の内面に興味がある内向型は生まれながらにしてアサーティブネスを発揮しやすいといえるでしょう。

SNSの「つながってる感」と「強い疎外感」

アサーティブネスが注目されるようになった背景には時代の変化があります。「人々が何を求めるか」が変わったのです。

アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローの欲求段階説は5段階から構成されるのは前回もお伝えしました。食事や睡眠など「生理的欲求」、敵や外部環境から身を守る「安全への欲求」、心理的安心のための「所属や愛への欲求」、周りから認められたいという「承認への欲求」、そして最後の第5段階が「自己実現の欲求」です。

下位の欲求を満たすことでその上の欲求が次々と出現し、最終的には「自己実現」という欲求にたどり着くというのがこの理論です。

これは日本の消費者の行動を考えるとわかりやすいかもしれません。戦後、モノのない時代は生きるための欲求が優先されました。その後に、周りと同じモノが欲しい時代や一段上のモノが欲しい時代が訪れ、高級ブランドが注目されたりしました。

それから格差が取りざたされるSNSが普及し、「承認欲求」が優位な時代になってきました。今はSNSを通して誰とでもつながっていると感じられる反面、強い疎外感も感じているように思えるのです。