介護保険制度のサービスを利用するには、介護認定を受ける必要がある。このとき、患者の介護度は「認定調査」と「主治医意見書」が非常に重要になる。高齢者の在宅医療を行っている医師の木村知さんは「『とくになにも困っていません』『なんでも自分でできます』という態度だと、実情より軽く評価される恐れがある」という――。

※本稿は、木村知『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

男性医師
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「最近、お父さんがボケてきたみたい」

例)あなたの両親は、父親が87歳で母親が84歳。2人とも血圧の薬は飲んでいるものの、ADL(日常生活動作=編集部注)はほぼ自立。集合住宅の3階に2人で住んでいます。先日、あなたに母親より電話が入り「最近、お父さんがボケてきたみたいなの。どうしたら良いかしら」との相談を受けました。

話を聞くと、同じことを何度も言ったり、しまっておいたはずのお金を誰かに盗まれたと言ったりすることがあって困っているとのこと。加えて最近は持病の腰痛の悪化だけでなく下肢の筋力も弱ってきており、かかりつけ医への受診も、これまでのように歩いて行けなくなりつつあると言います。

このまま歩けなくなってしまったら、寝たきりになって母親だけでは介護しきれない状況は目に見えています。あなた自身も実家に住み込んだり、家に引き取ったりということはすぐには考えられません。

まずは地域包括支援センターに相談しよう

この事例は介護を意識し始めた頃にあたります。初期段階ですが躊躇ちゅうちょすることなく早急にかかりつけ医に相談しつつ、並行して居住地の地域包括支援センターに連絡することに着手しましょう。

地域包括支援センターとは、いわゆる高齢者の生活を支えるための相談窓口で、介護サービスや日常生活の相談に専門の職員が応じるほか、介護保険の申請窓口としての機能を持ちます。ここに相談することが第一歩といえます。

家庭内の事情を他人に言いたくない、家庭内に他人がずけずけ入って来るのは勘弁してほしい、あるいは自分はまだ介護の世話になどなりたくない、という方も少なくないとは思いますが、事態が切迫してから動いても、すぐに介護サービスがはじめられるわけではありません。

「いま困っていること」がある場合はもちろん、今はまだ困っていなくとも「将来困りそうなこと」が見えてきた時点で、先手先手で動き出すことがとても重要です。

相談の結果、要介護認定の申請をした方がよいとのアドバイスを受けた場合は、躊躇することなく流れに乗って申請をしましょう。申請書類が受け付けられると、自宅に自治体の介護認定調査員が来訪して現状の聞き取り調査をおこないます。並行してかかりつけ医には医師の目から見た介護の必要度が記される「主治医意見書」の作成依頼が自治体から出されます。