生きやすくするには、どんな心の持ちようが必要か。僧侶の松波龍源さんは「現代社会を“現代的”たらしめている社会制度に目を向けすぎても幸せになれるわけではない。制度には人間の心のあり方が現れ、それを重視することが、現代社会のしんどさを脱却する鍵になる。たとえ政治が腐敗していても、道路が舗装されていない地方の村でも、そこにいる人々がじゅうぶんに叡智を磨いたならば、自分たちの力で豊かに生きていくことは可能であり、そこは理想郷になり得る」という――。

※本稿は、松波龍源『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

資本主義の「しんどさ」から脱却するための視点

本稿のテーマは「ポスト資本主義」です。人類が資本主義を発明して以来、経済は飛躍的に成長し、そのおかげで私たちは便利で豊かな生活を享受してきました。

ただ、物質的な豊かさが行き渡った昨今は、その負の側面が目立つようになっています。経済成長を優先すれば地球環境に負荷がかかりますし、資本主義の性質上、富が特定の人に集中するため、一方で日々の生活さえままならない人が以前より増えています。

厚生労働省がおこなった2023年度の調査では、相対的貧困率は15.4パーセントに達しており、日本人の約6.5人に1人が貧困という結果が出ています。もはや他人事ではありません。

お金とビジネスマン
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要するに、今の社会のあり方はベストではない。グッドどころか、かなりしんどいわけです。じゃあどうしたらいいのかと次の社会のあり方、つまり「ポスト資本主義」を考えようとする動きが広がっています。

ポスト資本主義を模索する動きには、どんなものがあるでしょうか。

株式会社を例に考えてみると、これまでは株主の利益が最優先とされてきましたが、最近では取引先や従業員、地球環境にも同時に配慮することが求められるようになってきました。

「ステークホルダー資本主義」ともいわれ、江戸時代の近江商人の思想「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」が見直されるような議論も起きています。

またカーシェアやシェアハウスなどのシェアリングエコノミーは、個人レベルのアクションとしてすでに普及しつつあります。今まで個人や家庭で一つずつ所有していたものをみんなで使うことで、利用者の経済的負担や環境への負荷が軽減されるのです。

実は私たちが運営する寳憧寺も、ポスト資本主義を模索するアクションの一つです。今の社会をより良く生きるにはどうしたらいいか。この問いを突き詰めていったとき、私は「仏教だ」と考えました。

その仮説が合っているかを証明すべく、さまざまな取り組みを試すから「実験寺院」なのです。まだ明確な答えは得られていないものの、たくさんの方が興味を持って寳幢寺を訪ねてくださるので、今のところ、仮説は間違っていないのではないかと考えています。