蒋介石とゼレンスキーの共通点

――いま、私たちが日中戦争から学べることのひとつはそこですね。到達目標の実現が難しい戦争は、容易に泥沼化してしまう。

ウクライナ情勢は最近、ロシアが強気になっていて、「話し合い」で過大な要求をしていますが、日中戦争の停戦交渉と似た構図ではないでしょうか。でも、往年の中国なり現在のウクライナなりは、その要求を受け入れたら「負け」なんです。なので受け入れられない。ずっと戦争は終わらない。

著者の広中一成さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
著者の広中一成さん

――ウクライナ戦争は日中戦争との類似点を感じます。侵略を受けた国のトップが、世界を味方につけて寝技で粘り続ける。「蒋介石=ゼレンスキー」説を提唱したくなりますが……。

かつての中国と、現在のウクライナの違いは国の大きさですよね。今回の場合はロシアの方が大きいですから、戦争が長く続くほど、物量でどうしてもロシアが有利になる。もっとも、一対一の戦いは限界があるので、世界を味方につけて戦う寝業師という点ではゼレンスキーと蒋介石は結構共通点があるかもしれません。

大阪万博にも共通する“日本社会の危うさ”

――日中戦争の教訓がもうひとつあるとすれば、戦略目的が曖昧なまま巨大事業に税金を注ぎ込み、微妙な結果を生んでしまうという構図の危うさではないでしょうか。

そうですね。戦術はあるけれど戦略はない。そして、失敗しても撤回できない。その理由は、撤回すると誰かが責任を取らなくてはならないからです。

日中戦争の場合、究極の責任者は昭和天皇なのですが、天皇に責任を取らせるわけにはいかない。かといって軍の官僚たちも、誰も責任をかぶりたくない。なので振り上げた拳は下ろせない。いまの大阪万博(来年開催予定、工事の遅れや予算の拡大など問題の泥沼化が指摘されている)とも通じるものは感じますね。

大阪市役所正面玄関に設置された「ミャクミャク」の像
写真=時事通信フォト
大阪市役所正面玄関に設置された「ミャクミャク」の像。傷部分に赤いテープが貼られている=2024年3月13日午後、大阪・中之島

――万博を控えて読みたい本、『後期日中戦争 華北戦線』ですね。

日中戦争当時から変わらない部分はありますよね。もっとも、「変わらない」で終わらずに、日本全体がグランドデザインを掲げられるようになってほしいのですが。明治時代には「近代国家になる」という大きな目標があったから、それに向かって邁進できたのですが、その次の目標は、たぶん描けなかったんです。

広中一成『後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線II』(角川新書)
広中一成『後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線II』(角川新書)

――大阪万博のホームページを見ると、目標は「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」と「日本の国家戦略Society5.0の実現」とか書いていますね……。ちなみにSociety5.0とは、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」だそうです。こりゃダメだ(笑)。

そのスローガンを本気で実現するために、大規模な国策事業をはじめたとはあまり思えない点は、日中戦争に似ていますよね。2021年の東京オリンピックでもそうですが、「空虚」な目標のもとでも始まるとそれなりに盛り上がり、直後は「みんな頑張ったね」となって終わる。きつい言い方をすれば、これはすこし鈍感に過ぎます。

そういうことに慣れてしまうと、やがて日中戦争みたいにもっと大きな泥沼にはまって抜け出せなくなるので、注意しましょうね……。というメッセージは、大阪万博にあたって伝えたい気がします。

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