リニア問題を担当する幹部クラスの顔ぶれ

リニア担当の新布陣は、渡邉氏のほか、県くらし・環境部理事(南アルプス環境保全担当)を務める池ヶ谷弘巳氏が県くらし・環境部長に昇格、知事側近で県知事戦略課長、秘書課長など務めた県知事戦略局長の鈴木利直氏が、池ヶ谷氏のあとを受けて、県くらし・環境部理事(南アルプス環境保全担当)に就く。

会見する川勝知事と渡邉氏
筆者撮影
山梨県と静岡県の断層がつながっていることを発見した渡邉氏が知事に代わって問題を指摘した

鈴木氏はこれまでとは全く畑違いのリニア問題を担当する。実際は、川勝知事との連絡調整役を担うのだろう。

また、リニア沿線都府県知事の建設促進期成同盟会と東海道新幹線静岡空港新駅を担当する県交通基盤部参事(局長級)の羽田充明氏は、仕事内容はそのままで部長級の交通基盤部理事に昇格する。

これで県リニア対策本部長の森貴志副知事、本部長代理の石川英寛・県政策推進担当部長を筆頭に、リニア専従の渡邉氏、鈴木氏らの新体制が4月1日からスタートする。

川勝知事の「ゴールポスト動かし」問題

2018年夏、静岡県とJR東海との間で、リニアトンネル工事に伴う水環境への影響の議論が始まった。

当時は、副知事を筆頭に、環境局長、水利用課長、自然保護課長らがリニア問題を担当していた。リニア問題の専従者はいなかった。

何よりもその当時の主張は、現在よりももっとシンプルであり、川勝知事の「全量戻せ」の主張に集約されていた。

リニアトンネル工事で大井川の水が毎秒2トン県外流出する恐れに対して、川勝知事は「毎秒2トンは流域62万人の命の水だ。県民の生死に関わる。すべて大井川に返してもらう」と主張していた。

リニア問題の解決について、川勝知事は「全量戻してもらうことにつきる」と何度も繰り返した。

ところが、川勝知事の「全量戻せ」の強い求めに応じて、JR東海が「毎秒2トンすべてを大井川に返す方策を講じる」解決策を提示した。

このあとすぐに山梨県境付近の工事期間中に県外流出する湧水の「全量戻し」にゴールポストを動かしてしまう。

もともとJR東海は、作業員の安全確保を優先して、山梨県側から上り勾配で掘削するため、10カ月間の工事期間中、約500万トンの湧水流出することを静岡県に説明していた。

この流出量は、毎秒2トンをはるかに下回る毎秒0.1トン程度であり、大井川下流域の水資源環境に影響を与えるものではない。

ところが、川勝知事の「全量戻し」のゴールが変わったことで、作業員の生命を守る安全確保よりも静岡県の湧水一滴を優先させる対策を取ることがJR東海の重大使命となってしまう。