自分から「会話の橋」をかけているか意識する
さて、この「会話の橋」をかけるという考え方、本書の中で「文字」として読んでいるかぎり、コンセプトとしてそんなに難しくないと感じることでしょう。
ここがコミュニケーションの不思議なところ。技術レベルとしてはたいして難しくないことでも、職場でいざ活用しようと思うと意外と難易度が高いことに気づきます。
もし仮に、あなたの職場に、「会話の橋」をかけてくれる気が利く相手がいたとしたら、それにすっかり慣れてしまい、自分から「会話の橋」をかけていないことに気づかない人もいます。
実際、プロのコーチを目指している人でも、「自分の考えを口にするだけ」であとは黙ってしまう人が意外と多いのです。
そんなとき、私が「今、会話が終ってしまっているよ。会話の橋をかけていないよ」と指摘すると、「あっ! 忘れていました」と気づきます。
しかしここでも、「あっ! 忘れていました」と、「会話の橋」をかけない言葉を返すので、またもや会話が終ってしまうのです。
ここで例えば、「あっ! 忘れていました。でも、どうして林さんはそうやってすぐに橋をかけることを考えられるのですか?」といった働きかけがもしあれば、私もそこで必要なアドバイスが提供できます。
これが「会話に橋をかける」ということです。
自分の意見を表明してから、会話の流れをデザインする
プロのコーチも、企業内での中間管理職、リーダー職やそれ以上の経営層も求められる技能は同じで、「人に影響を与えるコミュニケーションのプロ」でなくてはいけないと私は思っています。
その練習の一環として、会議などの場で自分の意見を表明したときは、ぜひ、言葉の最後で「会話の橋」をかけることを意識してみてください。
最後にもうひとつ、注意点をお伝えします。
「会話の橋」をかけるときには、「自分の意見」や「自分のスタンス」を、先に相手に伝えるのが鉄則です。
これをしないで、いきなり「皆さんは、どう思いますか?」と橋をかけるのはいささか乱暴すぎると思います。「いや、いきなりどう思うかと聞かれても……」と心理的安全性が一気に下がってしまい、言われた相手は警戒して「防御」の姿勢を取ってしまうかもしれません。
「んっ? リーダーはどんな回答を望んでいるんだろう?」
「課長は何を言わせたいんだろう?」
チームメンバーや関係者にこんなことを考えさせたり、言わせたりするのは、相手の負担を余分に増やす行為です。このような職場環境を作らないように、自分のスタンスを明らかにし、そのうえで「会話の橋」をかけることが肝心です。
「会話の橋」を使って、会話の流れをデザインする練習をしてみてください。