半導体製造機器の市場は、右肩上がりの成長

半導体業界には3~4年ごとに好不況を繰り返す「シリコンサイクル」と呼ばれる特徴があります。半導体業界の好不況の原因は、その製造サイクルの長さゆえに需要の変動に合わせ機動的に供給量をコントロールしにくい、という問題でもあります。新たな機器の需要伸張時には半導体需要も一気に盛り上がるものの、その需要が落ち着いても生産ラインがすぐには止まらないために、供給過剰が起きて半導体不況が発生するのです。

しかし、半導体製造機器業界は、自動車関連やIT機器関連など次々と誕生する新たな製品向けの半導体製造機器需要が継続的に生まれています。そのため、半導体ニーズが続く限りにおいて「シリコンサイクル」とは無縁な一定ペースでの需要が期待できます。

しかも、特にこの10年においては、IT化やDX化進展の流れもあって半導体製造機器の市場規模は右肩上がりに成長して、年間1000億米ドルを超える規模にまで達しています。2025年には1240億米ドルが見込まれる(米SEMI)絶好調な状況にあるのです。このような市場の成長もまた、業界のリーディングカンパニーである同社の成長と給与水準の飛躍的な伸張を後押ししてきたわけなのです。

2015年、「新生TEL」として再出発を宣言

東京エレクトロンの給与水準がこの10年弱で飛躍的に伸びている理由として、以上のような市場要因とは別に、もうひとつ社内的な要因もあるとみられます。それは、同社も認める2015年の大きな転機となった出来事が関係しています。業界の世界首位である米アプライドマテリアルズとの経営統合断念という大事件です。

同社内は業界の巨人企業誕生に湧き立ち、経営統合に突き進んでいました。しかし、この計画は米独禁法の関係で、突如断念せざるを得ないという事態に転じてしまったのです。ここで社内が意気消沈することを懸念した経営陣は、経営統合による世界一を目指した社内エネルギーの振り向け先をつくるべく、大胆な中期経営計画と財務モデルを策定し、CIも導入しました。

「新生TEL」としての再出発を宣言して、社内を鼓舞したのです。同社のホームページにもこの年が新たなスタートであると明確に記されており、筆者はこの時のパワーがその後の東京エレクトロン再成長の大きな礎となったとみています。

生成AI開発でも大きな需要が見込まれる

2月にバブル経済期の最高値を超えた日本の株式市場ですが、米ゴールドマン・サックス証券がそれをけん引する7つの有力銘柄を、「セブン・サムライ(七人の侍)」と名付けて公表しました。トヨタ、スバル、三菱商事の大手3社と共に、東京エレクトロンはじめ半導体製造装置メーカー4社が選ばれた点は特筆に値します。

IT機器や自動車関連の半導体需要は依然として旺盛な状況が続く見通しであるのに加えて、俄然注目を集める生成AI開発にも半導体大きな需要が見込まれており、半導体製造機器業界は今や日本経済をけん引する存在にもなりつつあるといえるでしょう。東京エレクトロンにはその業界リーダー企業として、失われたバブル後の30年を取り戻すべく、引き続きサラリーマンの給与水準の引き上げをけん引していってほしい限りです。

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