得意を伸ばす教育が日本の未来を変える

小林さんがダイバーシティを重視した教育に重きを置いているのは、高校時代にカナダに留学したことによる。日本の有名高校に在学中、ほかの科目はいい成績だったのにもかかわらず、数学の点数が悪かったため、「受験に備えて不得意科目の対策をしなさい」と言われたことへの疑問が、留学のきっかけだった。

私の場合、体操が全くダメで、母が「自分はバレーボールの得意なお転婆だったのに」と嘆いていたほどだった。転校先でのあだ名が「ニブタさん」で、跳び箱から転落したこともある。大学入学時の体力測定の結果が極端に低かったため、皆が体育の授業で野球やテニスを楽しんでいるときに、体力増強の特別クラスに入れられてボディービルの初歩のようなことを毎週やらされた。しかし私は、数学はむしろ進んだ内容を理解できる「アドバンスド・ラーナー(できすぎる子ども)」だった。

プラグマティズム(現実哲学:行動や実用性を重視する)の影響の強いアメリカでは、学習を単なる知識の蓄積ではなく、経験を通じての能動的な探求とみなし、学びの過程で得られる実践的なスキルや思考方法を重要視する。したがって、子どもの才能や得意なことをうまく褒めて伸ばそうとする。

すると、鼻持ちならない子どもが育つのではないかと言う人がいるかもしれない。しかしアメリカを見ていると、村一番の天才も、高い水準の競争に参加することで、他にも優れた者がいることを学んでいく。

情報技術のような新興分野では、世界水準より日本は遅れているといわれる。技術の進歩には、単に人口を増やすだけではなく、才能と能力のある人材の育成が不可欠だ。深い知識や特定の技能に強い関心を持つ、いわゆる「オタク」のような人たちを育てることが、技術革新と社会の進歩には重要であろう。これら学習者が、将来、日本の技術を世界水準に引き上げる鍵となるのだ。

(構成=渡辺一朗)
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