女性が政治のトップに立つ欧州でユリアも躍進するか
今までは、夫の危機の時だけ前面に出て、夫を支える強く賢い妻だったからこそ、ユリアは称賛されてきた。貞淑で、ひたすら夫のためを思う「デカブリストの妻」だったから、男性の一定の支持も得られた。今後は、夫の遺志を継ぐのなら、第一線に立つ「生意気な女」にならなければいけない。ロシア人はそんな彼女を受け入れるだろうか。
ユリアがEUの舞台や西欧にいると、このロシアの遅れは一層浮き彫りになるように見える。夫妻を救ったメルケル首相は、女性である。EUの内閣にあたる欧州委員会の委員長は女性のフォン・デア・ライエン氏である。アメリカにはまだ一度も、女性のトップは登場していないが、EU加盟国では女性の首脳は全く珍しくない。
2月27日、ユリアは欧州議会の演説で、スタンディングオベーションを受けた。そのEU議員の4割は女性である。
女性は男性の後ろにいるべきという「常識」は、消え果てているEU内の世界。ユリアへの同情と反体制派への支援の気持ちは本物だとしても、「夫の代わりの妻」への関心はどれだけ続くのだろうか。もし彼女が西欧に生まれていたら、彼女自身が政治家やNGOの重要な人物になったかもしれない。
しかし彼女はロシアで生まれ育った。そしていまや伴侶もなく、子どもたちの安全に不安を抱えながら、亡命者として生きていかなければならない。
3月17日の大統領選でプーチン再選阻止を呼びかける
亡命者が政治家に立候補することはできないのだから、夫が創設した「汚職防止財団」の活動を続ける以外に、夫の遺志をつなげてゆく方法はないかもしれない。汚職告発の窓口となり、協力者たちを束ね、汚職告発のシンボルとなる難しい仕事になるのではないか。
ユリアは、3月6日、動画を投稿し、ロシア大統領選の最終日となる17日に「反プーチン行動」への参加を呼びかけた。プーチンの再選が確実視される大統領選について、「完全な作り話でウソです。プーチンは好きなように結果を描けます」と批判。
「アレクセイが教えてくれたように、選挙を通じて私たちの存在を示す必要があります」「17日正午に投票所に来て、プーチン以外の候補者に投票するか、ナワリヌイと書いてもいい。これはとても簡単で安全な行動です」と訴えた。
ユリアの服装は、今までには見たことがないような、真っ赤な服に真っ赤なマニキュア姿だった。彼女は今まで、かなり抑制された装いをしてきたのに。
国外から祖国ロシアに呼びかけるユリアは、今後どのような変貌を遂げるのだろうか。それとも人々の記憶から薄れてしまうのだろうか。彼女の選択と運命を見守り続けたい。