ロシア軍侵攻前のトランプとウクライナ
トランプ氏は、「ロシアとウクライナのどちらに勝ってほしいのか」という質問に答えることを拒絶し、「自分が大統領になったら1日でロシア・ウクライナ戦争を終結させる」と述べている。実際に就任後すぐにゼレンスキー大統領への復讐心を披露するかどうか、やがて明らかになるだろう。
ロシアの全面侵攻以来、ウクライナと言えば、ロシアに侵略されている国であり、アメリカの絶大な武器支援の対象国であるという印象が固まっている。そのためほとんど忘れ去れているが、2022年以前には、アメリカ外交におけるウクライナとは、バイデン氏とトランプ氏の疑惑スキャンダルの現場としてのイメージが強かった。
2019年9月、アメリカの各メディアは、トランプ氏が大統領就任直後のゼレンスキー氏と行った電話協議の中で、バイデン氏の息子がウクライナのガス企業の役員を務めていた事情を調査するよう繰り返し求めた、と報じた。バイデン氏自身をはじめとする民主党系の人々は、これを「権力の乱用」だと一斉に批判した。アメリカからウクライナへの武器支援を、バイデン氏の息子のスキャンダル探しへの協力とからめて、トランプ氏がゼレンスキー氏に圧力をかけたと非難したのだ。
「権力乱用」疑惑による弾劾訴追の原因に
アメリカのウクライナへの軍事支援は、2022年に突然始まったわけではない。2014年マイダン革命後のロシアによるクリミア併合とドンバス戦争への介入を受け、当時のオバマ政権はウクライナに対する大々的な軍事支援を進めた。その実績に基づく人的交流や情報共有の仕組みは、2022年の全面侵攻初期からウクライナがロシアを相手に善戦している一因となっている。
しかしNATO構成諸国に対してすら冷淡な態度をとったトランプ大統領が、オバマ大統領時代からのウクライナ軍事支援を快く思っていなかったことは想像に難くない。トランプ氏は、実際に2019年に約4億ドルのウクライナ向けの軍事支援を一時停止した(議会からの圧力で再開)。これが個人的動機に基づくものだったという「権力乱用」の疑惑から、議会下院は、弾劾訴追の決議案を可決した。そのためトランプ氏は、弾劾訴追をされるアメリカ史上3人目の大統領となる不名誉を受け、弾劾裁判に直面する羽目になった。