「災害時の確かな情報発信」は例外だが…
先に示した文書で新聞協会は、今年元日の能登半島地震に触れ、「地方新聞社をはじめ新聞・通信社も災害時の確かな情報発信という役割を担っている」と誇る。その上で、次のように結んでいる。
メディアの多元性が一度毀損されれば元の姿を取り戻すのは難しく、NHKのみが巨大な影響力を獲得することになりかねない。民主主義社会の財産である言論の多様性やメディアの多元性が損なわれることのないよう慎重な制度設計が行われることが重要だ。
そこまで「メディアの多元性」が重要ならば、NHKがネット上で独自コンテンツを展開するのも多元性に含まれるのではないか。それなのに今回の放送法改正では、「番組関連情報」を新しく設け、災害などの緊急情報を除いて、配信コンテンツは「番組と密接な関連を有する」もので、「番組の編集上必要な資料」に限定するとしている。
このままでは、NHKも新聞も潰れてしまう
ネットのコンテンツは、①視聴者の要望を満たす、②国民の生命・安全を確保する、③他メディアとの公正な競争の確保に支障を生じない、この3つの要件をすべて満たすものに限定される。3つめが「メディアの多元性」を確保するために求められていると言えよう。
一方で上記の新聞協会の文書にあるように「災害時の確かな情報発信」は例外なのである。平時に接点を減らしておいて、いざ災害の時は見てください、が、成り立つのだろうか。いつも見ていないメディアを、わざわざ見ようとするだろうか。
森下俊三氏がNHK経営委員長を退くにあたって、朝日新聞は「視聴者不在の構図」を、毎日新聞は「ジャーナリズムの使命」を盾に批判した。その批判は、「メディアの多元性」に照らして、ブーメランのように自分たちの主張=新聞協会の立場に、はね返ってくるのではないか。
NHKのさらされる内憂外患(内側のガバナンス不全、外側からの圧力)は、他山の石どころではなく、メディア業界全体が直面する喫緊の課題であり、このままでは、NHKだけではなく、あらゆるマスコミが潰れてしまいかねないのである。