新聞がこだわる「メディアの多元性」とは

全国の新聞社や民放テレビ局で作る、一般社団法人日本新聞協会は、これまで、NHKのネット業務の「必須業務化」に反対や懸念を何度も表明している。

直近では、2月20日付で同協会メディア開発委員会の出した「公共放送ワーキンググループ第2次取りまとめ(案)に対する意見」において、「なぜ必須業務化が必要なのかなどは明らかになっていない」と述べている。理由は、「配信する情報の範囲は地上波テレビ放送のネット業務と同様、限定的にしなければ、メディアの多元性を脅かす抜け道になりかねない」からである。

「メディアの多元性」とは何か。

乱暴に言い換えれば「いろんなメディア企業の延命」とでもなろうか。新聞協会が、NHKのインターネット業務について述べる文書では、10年以上前、たとえば2011年12月9日付のものから既に見られるので、同協会の中では常識というか、決まり文句なのだろう。

NHKがネットで存在感を増していくと、パイが少なくなっている中で、新聞を読む人がさらに減ったり、テレビがもっと見られなくなったりする。そんな懸念のあらわれから、「メディアの多元性」にこだわっているのではないか。

日本新聞協会が入居する日本プレスセンタービル
日本新聞協会が入居する日本プレスセンタービル(写真=Rs1421/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

新聞協会の考え方は「情報の多元性」を損なう

この問題を長く取材しているコピーライターでメディアコンサルタントの境治氏が述べるように、新聞協会の考え方は、「ニュースを読む側からすると、情報の多元性を損なうことになり大きな不利益」である。

NHKにとってさらに深刻なのは、境氏が述べるような「若者にもNHKの重要性を認識してもらうわずかな可能性がテキストニュースにはあった」にもかかわらず、今回の放送法改正案が成立すると、その可能性がほとんどなくなってしまうところにある。

NHKと新聞協会が、足の引っ張り合いをしているあいだに、読んだり見たりする人たち=顧客を逃してしまうのではないか。ネットは義務になるのに、肝心の中身は独自性を失い、放送と同じになるのなら、誰が進んで見ようとするだろうか。それが、NHKを襲う最大の「揺れ」にほかならない。