岩出雅之(帝京大ラグビー部監督)

いわで・まさゆき
1958年、和歌山県新宮市生まれ。新宮高校、日本体育大学体育学部卒。滋賀県教育委員会、栗東市立栗東中学校、滋賀県立虎姫高校などを経て滋賀県立八幡工業高校に赴任し、同校ラグビー部を7年連続花園出場へ導く。96年に帝京大学ラグビー部監督に就任。2011年より帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科教授。著書に『信じて根を張れ!楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる—大学ラグビー日本一・帝京スポーツソメッド』(小学館)。

史上初の大学選手権4連覇にひた走る帝京大ラグビー部を率いる。驚くのは、チームに慢心がないことだ。基本に忠実、特に疲れた場面でのタックルが厳しい。プレーだけでなく、あいさつや礼儀、学生としての規律もしっかりしている。

監督の岩出雅之がいるからである。和歌山県出身。日体大時代はフランカーとして活躍、主将として大学日本一に輝いた。高校教諭としてラグビー部も指導、高校日本代表監督も務め、1996年に帝京大監督となった。ラグビー部員の不祥事もあったが、学生を私生活から厳しく指導して再建、2009年度、初の大学日本一に導いた。以後、強力FWと堅実なディフェンスで連覇を伸ばしている。

指導の要諦を聞けば、54歳は笑顔で「本気・根気・元気」と即答した。グラウンドでは、きめ細かく、丁寧に指導する。とくに基本プレー。例えばタックルでは、まずタックルポイントにいけ、低く相手に入れ、両手を強く引き締めろ、足をドライブさせろ、といった具合である。さらには次の動作。つまり相手を倒したら、すぐ起きて次のプレーに移ることをたたき込む。

練習中。学生が手を抜いて歩きでもしたら、岩出監督は笛を吹く。罰の腕立て伏せとなる。

「基本とは、からだに染みついていくものじゃないですか。しんどい時ほど、うるさく言います。要は繰り返しです。“基本をDNAに刻め”とよく言っています」

グラウンドの練習だけではない。ウエイトトレーニングや食事、そうじ、学校の授業など、私生活もちゃんとするよう指導する。

「要は心とからだのバランスです。1日24時間中、ラグビーの練習はせいぜい、2、3時間。残りの時間を学生がきっちりし始めたら、チームは強くなっていきます」

食事なら1日4食、5食、どんぶり飯の大盛りを残さずに食べる。授業は一番前の席に座って受ける。つまり妥協はさせない。やり切ることが大事だと諭すのである。

今季も勝利を重ね、関東大学対抗戦の優勝を決めた。浮かれたところはない。

「勝って“奢らず”です。学生は1年1年、やっぱりその年を充実させるのが大事です。学生にとって、大きな財産ができます」

そういえば、秩父宮ラグビー場での試合の日には、非レギュラーの学生が試合前、ラグビー場周辺のゴミ拾いをやっている。そうやって人間的成長を促す。これもまた、財産のひとつであろう。

(高見博樹(T&t)=撮影)
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