結婚と離婚
父親は、50代を過ぎたあたりの頃から、腰から足にかけての痛みをたびたび漏らすようになっていたが、やはり病院には行きたがらなかった。
「父は、家での調理中、誤って足の上に包丁を落として大怪我をしたこともありました。母と私が病院へ行くよう言いましたが、父は大の病院嫌い。自力で自然治癒させました。自分が一番偉くて正しいと思っているので、人の忠告なんか聞くわけないのです」
しかし60歳になったとき、父親は腰から足にかけての痛みがひどくなり、歩けない状態に陥る。何とか母親が介助して病院を受診すると、脊柱管狭窄症と診断された。脊柱管狭窄症とは、神経の背中側にある黄色靭帯が分厚くなったり、椎体と椎体の間にある椎間板が突出してヘルニアとなったり、骨そのものが変形突出したりすることで脊柱管が狭くなった状態だ。脊柱管が狭窄すると中を走る神経が圧迫され、歩行時や立っているときに臀部から下肢にかけての痛みやしびれが出る。
歩行障害が出ていた父親は、神経の圧迫を解消するため脊柱管を拡げる手術を受け、2カ月ほど入院した。
「病院へ行った時はすでに痛みで歩けなくなっていたので、発症から10年以上経っていたのだと思います。早く病院へ行って対処療法などを受けておけばここまで苦しまずにすんだと思うのですが、とにかく父はバカが付くくらい病院嫌いでした」
高校を出た白馬さんは、流通系の会社に事務として就職。そこで24歳の時に、管理職の28歳の男性と交際に発展。25歳で結婚し、実家から公共交通機関で1時間ほどのところで生活を始めた。結婚後は、年に数回実家を訪れ、母親とは年に数回旅行をしていた。
両親は65歳になると、定年退職する。父親は趣味のガーデニングやDIYなどをして過ごし、母親はそんな父親の手伝いや後始末をして過ごしていた。
一方、結婚して10年経過し、35歳になった白馬さんは家庭内別居状態に陥っていた。
「お互いのことをよく知りもせず結婚してしまったため、割と早い時点お互いに、『違うかも』と思ったのですが、同じ会社に勤めていたこともありズルズルと……。夫は私が家にいると不機嫌になるため家庭内別居状態に陥り、会社では別部署に異動に。私は家でも職場でも居場所がなく、疲れきっていました」
家庭内別居生活も10年……。白馬さんは突発性難聴を発症。「もう精神的に限界だ」と思った白馬さんは、思い切って退職と離婚を切り出した。
「仕事を辞めれば生活が苦しくなることは分かっていましたが、このつらい状況が続くよりはマシだと思いました」
離婚を切り出すと夫は、「自分の貯金を全部持って行っていいから出て行って」と言った。
「結婚費用や自宅購入時の頭金は私が払ったんですし、子どももおらず共働きだったんですから、私の貯金は私のものですよね?」
2021年3月。45歳の白馬さんは、20年間の婚姻生活に別れを告げると同時に27年間正社員として勤めていた流通系の会社を退職した。