コロナ禍のサッカー中継の代わりに放送したところブームが再燃
2015年に創業30周年を迎えたタイミングで、佐藤さんは日本のコンテンツをないがしろにしてこなかったかと自問し、往年の特撮ファンを喜ばすべく、東映から『ジャスピオン』『チェンジマン』『フラッシュマン』のライセンスを得てネットフリックスに持ち込んだ。
ところがネットフリックスは「もはやハイデフィニション(高解像度)映像しか受け付けない」と、古い特撮ドラマを規格外とした。サトウ・カンパニーは行き場のないかつての人気作品のポルトガル語吹替版を自社のYouTubeチャンネルで無料公開。これに喜んだ特撮のコア層には、サトウ・カンパニーこそが今世紀に特撮を引っ張っていくのだと映った。
一方、大多数のライト層を引きつけたのはパンデミック中の地上波放送だった。90年代に特撮ドラマ放映の経験があるTVバンデイランテスは、パンデミックによるサッカー国内リーグ中断のため、日曜朝の中継枠の穴埋めにサトウ・カンパニーに特撮ドラマ放送を打診。『ジャスピオン』『チェンジマン』『ジライヤ』を放送したところ、視聴率2.2%と、同局平均のおよそ倍の数値を記録した。ツイッター(現X)には、特撮再放送に関するハッシュタグがトップトレンドに躍り出たのだった。
「ブラジルのヒーロー」として生まれ変わるジャスピオン
パンデミックでは特撮人気の根強さを確認できた一方、中断された企画もあった。それがファン待望のブラジル版映画『ジャスピオン』の制作だ。
2019年、ポップカルチャー関係の注目が集まる「サンパウロ・コミコン」(CCXP)の壇上で佐藤氏は映画制作を発表し、映画監督を紹介した。応援に駆けつけた東映の国際営業部担当は、ジャスピオンのオリジナルの変身スーツを会場で展示することで注目を集め、ソーシャルメディアは大いに沸いた。
パンデミックを挟んであれから約4年がたった。
「何があっても今年制作を始めます。現在、シナリオを詰めているところで、今年下旬にクランクインします。来年1年を特殊効果に費やして、2026年に上映予定です」と佐藤さんの口調は確かだ。
2019年のコミコンの際に東映の担当者は「日本のヒーローとしてではなくてブラジルのヒーローとして生まれ変わったものを皆さんに楽しんでいただけたらうれしいです」と会場でのインタビューを通じてエールを送った。
かつて日本の特撮テレビドラマがポルトガル語に吹き替えられてこの地を沸かせた。ブラジルで生まれ変わるヒーローが、ノスタルジーを損なうことなく、今の時代にどのような魅力を放つのか期待は募る。