栃木県那須町は1970年代に膨大な数の分譲別荘地が開発され、今は道路もろとも山林に埋もれたままの放棄分譲地が多数放置されている。土地の名義変更手数料や整地費用、税金対策費用などの名目で大金を詐取されてしまうのはにわかに信じがたい話だが、これも、土地の処分に悩む所有者の焦燥に付け込んだ手口のひとつである。

所有者は「二次被害」に気づいていない

こうした違法な手数料を詐取する被害は、今も多くの限界分譲地で横行していて後を絶たない。実際に男13人が逮捕された際の報道によると、「同課(警察庁組織犯罪対策4課)によると、詐欺グループの関与が疑われる被害は全国で約4億円に上る可能性があり、都内では191人確認されている」という(29日付産経新聞朝刊)。

この「野村ハウジング」の事例はあまりにも手口が荒っぽく、そのうえ被害額が高額すぎたために摘発に至っている。だが立件されるケースは「氷山の一角」と言える。

各新聞報道では事件の被害者を、かつての「原野商法」の被害者であると報じている。だが事件の舞台となった物件の映像や写真を見る限り、原野と言うよりは、おそらく投機目的で開発・販売された一般の分譲別荘地であると思われる。

「原野商法の二次被害」という呼称に問題があるのはこの点である。別荘地の所有者には、自分がかつての「原野商法」の被害者であるという自覚がない。これらの限界分譲地は、当初から詐欺まがいの手法で販売された北海道の原野と異なり、少数とはいえ今も住民が暮らしている現役の住宅地でもあるからだ。

実際には多くの限界分譲地は、資産価値の喪失という「原野商法」と似た問題を抱えているのだが、道路が敷かれ、住民が暮らしている限り、そこに居住するかどうかはあくまで所有者の個人的な都合にすぎないわけだから、これらの分譲地の購入者が、自分が原野商法の被害者だと自覚しないのは無理もない話だ。

売るに売れない…所有者が悪徳業者にだまされる理由

だが、自覚がないということは、例えば国民生活センターが「原野商法の二次被害」について度重なる注意喚起をしても効果は限定的だ。詐欺の被害にまで遭わないにせよ、自分が所有する土地が、実は原野商法の土地と同様の「負動産」であると自覚できる機会もないまま、手放すための道筋すら立てられないことになる。