電柱もない放棄分譲地への問い合わせは少ないだろうし、広告主も気が付かず放置したままだったのだろう。僕が奇妙に感じたのは、この土地が売れたという不動産会社からの返答である。なぜならこの分譲地の入り口は、A氏が問い合わせた後もバリケードで封鎖されたままで、広告に出された区画もまったく利用されている気配がなかったからである。

いくら30万円と言っても、今の時代、こんな無価値な放棄分譲地を投機目的で購入する人はいない。買い手の感覚からすれば30万円でも高い。

千葉県の九十九里平野においては、30万円程度の価格で長期間広告が出され続けている土地は他にも多数あり、わざわざ電気を引き込むことができるかもわからない土地を選ぶ理由がないからだ。利便性も悪く、周囲は民家もほとんどない鬱蒼とした雑木林である。

A氏の場合、自作の小屋を建てるための土地を探していたので逆に人家のない環境が良かったのだが、一般人が普通のマイホームを建てられるような環境ではない。また、物件価格に応じた法定の手数料しか受け取れない仲介業者にとっては魅力に乏しい物件であることは間違いない。

そのため当初筆者は、単に業者が応対を面倒がって売却済みと回答しただけなのではないかと疑った。

売地は複数あるが、利用されている区画は一つもない。
筆者撮影
売地は複数あるが、利用されている区画は一つもない。

登記簿に書かれた“怪しい社名”

そこで、その売地の登記事項証明書を取得してみた。確かに平成29年(2017年)に、おそらく分譲当初の取得者と思われる方から、港区芝大門の「野村ハウジング」なる会社に売却されていた。

しかし、その「野村ハウジング」は、購入してからわずか1カ月後に、今度は都内に住む別の男性に転売している。奇妙なことに、所有権移転登記(順位番号3番)は、2年後の令和元年(2019年)6月5日に、所有権抹消請求訴訟の判決が下されて取り消され、所有権が再び「野村ハウジング」に戻されていた。

不動産取引における所有権移転登記の抹消請求は、わかりやすい例としては、地面師などによって偽造された申請書類で実行されてしまった不正な移転登記(不実の所有権移転登記)を、本来の所有者がそれを無効とするために請求したりするケースがある。