求められる社会システム志向

このように会社や家族というこれまでの仕組みを支えてきた帰属コミュニティがオープンになる一方で、生活する地域は社会リソースを共有化するためのインフラが構築され、様々なサービスが再構築される。まさに多くのビジネスチャンスはここになる。しかし、これまでこうした社会システムは行政政策視点、インフラ企業視点で語られることが多かった。例えば昨今話題のIT×エネルギーをベースとした「スマートコミュニティ」は再生可能エネルギーなどによって地域で発電された電気を地域で蓄電したりし、地域内で最適なエネルギー利用を目指すことをベースとしたまさに地域コミュニティの再構築プランであり、構想自体は素晴らしいが、このままではリアリティが少ない。

リアリティを高めるには本当に住みたくなる地域、便利になる地域にしていく必要があり、まさにマーケティング視点での社会システム開発が求められるところに来ている。例えばスマートシティで発電した蓄電池付きの輸送ビークルと共同倉庫を導入することで、宅配業者は配送コストを劇的に下げることができれば、物流コストが安い結果、色々な商品を地域で共同購入し、貸し借りも共同倉庫から簡単に運べるような生活コストが下がり、必要な時は様々な商品が安価に使えるような地域サービスモデルを構築できる。例えば月額1000円で地域内物流使い放題になれば、近所の友人との貸し借りや物物交換も増え、物を置かなくてよいので自宅のスペースも広くなるということも実現するかもしれない。

共同体向けの地域ベースで採算のとれるマイクロビジネスは次々と出てくる可能性は大きい。そしてその集積こそが地域経済になる。その日本中に地域に多数生まれる新しいマイクロビジネスを支えるプラットフォームは当然ITが中心的な役割を担うことになり、今の楽天クラスのものがまだまだ出てくるチャンスがあるということだろう。

社会システムの再構築という仕事は政治家や役人や大企業の社長たちだけが考えることではない。むしろ今求められているのは、多くのサービスやプロダクトがその視点で生活者へ提案をしていくことであろう。目の前の商品やサービスを販売するということだけのマーケティングを考えるのではなく、日本における構造変化が生み出す顧客にニーズや課題を大きな社会システム視点で常に発想し、自社の商品やサービスに重ねていくことだろう。それはあるときはプラットフォームを作るということかも知れないし、第8回で述べた通り、コラボレーションや企業横断で共同マーケティングをしていくという事かも知れない。

いずれにしてもこうしたイノベーションはある日突然誰かがやってくれるわけではない。アマゾンやグーグル、アップルに任せるものでもないだろう。この日本の社会システムは日本から生み出し、同じように少子高齢化社会を迎える国にシステムとして横展開していくことこそが、日本の新しい輸出産業になるのではないだろうか。