D4DR社長/コンサルタント 藤元健太郎(ふじもと・けんたろう)●1967年東京都生まれ。1991年電気通信大学電気通信学部卒。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。日本初のCGMサイト関心空間社取締役、経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員、青山学院大学ExectiveMBA非常勤講師などを歴任。

これまでの消費モデルを破壊する2つのトレンド

今後の日本の消費トレンドを見た時にやはり大きな2つの要素は「少子高齢化に伴う中流の喪失」と「デジタルコミュニケーションの進展」に集約できるのではないだろうか。そしてその変化は望む、望まないに関わらず、劇的なスピードで始まっている。

日本が世界最先端の少子高齢化大国になることはすでに多くの人が理解していることだが、同時に進んでいるのは中流の喪失だ。いわゆる中産階級の喪失は多くの先進国共通の問題でもあるが、移民の流入のない日本は超高齢化、人口減少、中流の崩壊が同時平行で一気に進展している。「結婚して子供を作り、収入が増えていき、車や住宅を買い換えていく生活者」。こんな理想モデルはとっくに崩壊している。ライスタイルは多様化し、もはや多くの日本の大企業が成長していたあの頃のマーケティング成功体験はほとんど通用しない時代が来ている。

かつては車もファッションもコミュニケーションツールだった。自分のアイデンティティを表現し、他人に伝えるためには重要だった。流行に乗った服を着て、「いつかはクラウンと」人に自慢できる車を買うことが、他人へのわかりやすい情報発信であった。しかし、中流が消失する中でもはや人に自慢をすることもかっこ悪いこととなっている。

そしてデジタルコミュニケーションの浸透はこうした「物理的記号的プロダクトの所有による情報発信」の価値を著しく低下させた。例えばIT業界がカジュアルファッションで大丈夫なのは、業界が新しくラフだからというだけではない。そもそも電子メールで仕事のコミュニケーションを取る人々にとって、相手の信用を外見で判断する必要はない。実際に会うまでに何度も電子メールでやりとりを行い、信頼関係を築くことも多い。

そしてソーシャルメディアの普及は自分の個性やアイデンティなどを事前に多くの人に簡単に伝えることもできるようになった。初めてあった時に相手の服装から何かを探るという必要はそこにはない。むしろその人のセンスのよさは一見した服装から判断するよりもソーシャルメディアでのコミュニケーションの中の方ではるかに伝わるものである。

ファッションが終わる前に:第1回「ソーシャルメディアは見栄を殺す」
http://www.afpbb.com/fashion/article/fashion-mp/2902370/9551095

かつて日本の若いOLと言えば海外旅行で高級ブランド品を買い漁るという光景が代名詞でもあったがそれも今は消えつつある。どこか白い目で見られたあの消費行動も今や中心は中国や東南アジアの新興中流階級にその座は取って変わられつつある。かつてブランド品購入の資金の供給源の親達は世代が変わり、今や自分達が生活で精一杯な世代になりつつある。

当然、子どもへの分配は制限される。子どもたちの希望の星はおじいちゃん、おばあちゃんということになる。今や子育て消費に祖父、祖母は欠かせない資金供給源だ。第6回のシェアのところで書いたように、今や家族3世代で資産も労働力もシェアすることが普通になりつつある。

社会の限られたリソースを有効に活用することに迫られれば、ますます「個人の所有」から「共同での使用」という流れになる。企業側は個人に所有してもらうのではなくいかに「共同での使用」による価値を提案していくかが重要になるのだろう。ここでの「共同」は狭義のシェアに限らず広義に捉えれば、現在のエシカル消費などに代表されるようなフェアトレードから再生品まで多くの人が共同で関わり続け、共感を生み出すものがメインストリームになるということも言えるのかもしれない。