新潟、富山、石川、福井4県への旅行商品を半額で購入できる「北陸応援割」が3月からスタートする。まちづくりの専門家・木下斉さんは「政府は、宿泊施設などの『便乗値上げ』を監視すると明言したが、それは間違っている。被災地復興のためには『便乗値上げ』が必要であり、旅行商品の安売りを強いることではない」という――。
福岡空港の「Go To トラベル 地域共通クーポン」の案内板=2020年12月29日、福岡市博多区
写真=時事通信フォト
福岡空港の「Go To トラベル 地域共通クーポン」の案内板=2020年12月29日、福岡市博多区

被災地の復興には「便乗値上げ」が不可欠

政府が3月から始める能登半島地震の被災地支援策「北陸応援割」について、今から「便乗値上げをするな」という話が大喧伝されていて、耳を疑ったところです。

この「便乗値上げ」とは、割引相当分をあらかじめ旅行代金に上乗せすることですが、むしろ被災地の観光業は、復興のためにも便乗値上げをするべきだ、と私は思っています。

プライシング(自社の製品やサービスの価格を決めること)は経営の基本であり、事業者の経営判断の核となります。しかし政府は、「割引クーポンは配るが、観光業者は既存の値段のままに、旅行者が安く泊まれるようにしろ」と要請しているわけです。

これでは被災地の復興どころか、状況はさらに悪化するばかりです。

そもそも何をもって便乗値上げなのか、旅行商品を安売りすると何が起こるのか、今一度考えてほしいと思います。

なぜ宿泊施設がクーポン配布の際に値上げをしたがるのか。それは「目先の金欲しさ」だけではない理由があるのです。

税金による割引サービスの長所と短所

クーポンで旅行商品価格を割引く取り組みは、消費喚起策としても用いられる税金による割引サービスの一種です。2011年に発生した東日本大震災後、あるいはコロナ禍に実施された「GoToトラベル」、最近では熊本地震(2016年4月)後にも実施されています。

このようなクーポンは、税金の活用方法としてはコスパの良いものです。例えば、政府が5000円のクーポンを配り、客がそのクーポンを利用して1万5000円の旅行商品を購入すれば、簡単に言うと3倍の経済効果を生み出すことができます。クーポン配布はレバレッジが効く方法なのです。