痴漢被害の実態を知らない男性たち
当時、2011年の日本の世の中では、痴漢犯罪の話題はほとんど取り上げられていませんでした。たまに有名企業の社員が痴漢犯罪を起こしたりするとニュースになるくらい。それよりも2006年公開の映画『それでもボクはやってない』の影響がかなり強く、テレビでも痴漢冤罪の恐怖が日々取り上げられ、書籍も痴漢冤罪体験談ばかり発売されていました。
ネットで痴漢被害について話そうとしても、「痴漢冤罪のほうが問題だ」という男性の声が非常に大きく、リアルの場で話しても、特に男性たちはそういった性被害が実際にあることを知らない人が多く「AVの中の話でしょ? 本当にあるの?」「都市伝説でしょ?」と返されるのも日常茶飯事でした。
中には、思い出したように「そういえば俺も痴漢に遭ったことがある」という男性も結構いました。映画館や電車内などで男性から体を触られて怖かったという体験を話してくれることがありました。
しかし、「どうして痴漢をしてしまう男性がいるのか?」という問いに答えられる男性はゼロで、「満員電車で女性と密着した時に、ドキドキする気持ちはわかるけど、普通はやらないよ。俺には分からない」という回答が限界でした。
被害に遭っていた側からすると、加害者は全員が男性だったのに、男性たちが痴漢被害の実態についてほぼ全く知らないということが不可解でした。
ネガティブな「性の話」に無関心
これだけ毎日たくさんの被害があるのに、なぜ知らないでいられるのか。
だけど、女性も暮らしていた地域などによって、痴漢被害に遭ったことがない人はたくさんいて、そういった方は同じように実態を知らないのでした。
「同じ性別だからって、個人がヒッソリやっている犯罪を知っているわけない」というのは分かる。
だけど、分厚いコートを来ていたりジーパンを履いていても、満員ではない電車の中でも痴漢被害には遭うのに、私たちの時代の女子たちは「短いスカート履いているからだろう」とか「隙を見せるから悪いんだ」とか「相手も魔が差したんだ」と、相手をそういう気にさせることが原因だと決めつけられ、とにかく自衛しろと言われまくっていました。
それと同じくらい、「痴漢をするんじゃないぞ」と男子たちは言われなかったんだな、ということを大人になってから知って、当たり前のことなのかもしれないけど、なんだか納得できない気持ちがありました。
痴漢の話をしても、男性特有の問題かもしれないと受け取る人はほとんどおらず、「俺は違う」で終わり。すぐに痴漢冤罪についての話になり、「女性から痴漢に間違われること」におびえるばかり。
「男性は他の男性が何をしているのかに対して無関心である」という印象が強く残りました。女性とのセックスの話や、自慰について、エロについての話は男同士元気よくしているのに、そういったネガティブな男性の性についての話では、男性同士がまったくつながっていないんだ、と感じました。