すべての登場人物に体温が感じられる

主人公は、優秀で仕事もできるが、独身で彼氏も友達もいないアラフォー。髪をひっ詰め地味な眼鏡、化粧っ気もなく無口、社内では皆に変わり者扱いされている田中さん(40)。

ところが田中さん、夜は濃い舞台メイクをして露出度の高い衣装をまとい、ペルシャ料理店で妖艶な、まさにセクシー全開のベリーダンサーとして踊っていたのだ。

夜のセクシー田中さんを見つけたのが、同じ会社の派遣社員である倉橋朱里(23)だ。朱里は一見すると、すべて田中さんとは対極にあるような、「誰からも愛され系」の女子。傍からは人生イージーモードなのに、すべてに流されていくような自分が好きではなく、ベリーダンサーの田中さんを知る前から、自分をしっかり持っている孤高の人だと憧れていた。そして朱里から接近し、2人は年齢差も性格の違いも超え、親友になる。

そんな田中さんもいつも自分に自信がなく、自分を変えたいとベリーダンスを始め、そこで出会った既婚の料理店マスターに惚れてしまう。マスターこそセクシーでモテ男だが、田中さんに対しては真面目に向き合い、軽率に手は出さない。

若いのに古風、保守的、昭和脳と評される笙野浩介も現れ、田中さんに惹かれていく。朱里は幼い頃からモテ続け、今も学生時代からの中途半端に友達で彼氏みたいな仲原進吾と、合コンで会ったチャラ男に見えて意外と純な小西一紀との間で揺れている。

マンガに影響を受けてベリーダンスを始めた

これら主要な登場人物だけでなく、彼らの親も含め、脇役から通行人に近い人まで、すべての人に深い物語と生々しい感情がある。だからどの人も主人公足り得るし、2次元を超えた、生きている人、血肉が感じられる存在となっているのだ。

私も還暦を目前にしてベリーダンスを習い始めたのも、このマンガにかなり影響を受けたからだ。そのときも私はタイトルのセクシーを、色気よりも魅力と解釈していた。

お腹を出して妖艶に官能的に腰を振る踊りは、世界最古の踊りという説もあり、元は祭事だ神への祈りだともいわれながら、イロモノ、キワモノ扱いもされる。そう、衣装や踊りがずばりセクシーだからだ。

発祥の地では娼婦の踊りともされ、戒律の厳しい地域では禁じられてもいる。田中さんも、それを承知している。だからこそ始めたし、楽しんでいるともいう。

実際に踊ってみれば、わかる。娼婦でないのに娼婦と見られても、いつ脱ぐのなどと誤解されても、男に媚びていると決めつけられても、踊り手は強く否定や反論はせず、そうかもしれませんね、と微笑み返せる。

ベリーダンスは女に生まれたことの喜び、女の体を持っていることへの誇りを持たせてくれる。あらゆる雑音も賛美もそしりも受け入れ、セクシーを賛辞に持って行ける……。

そんな喜びと自己肯定をくれた素晴らしい物語はしかし、ご存じのように未完となってしまった。