海保のステータスは格段に上昇している
私が長官秘書をしていた20数年前は、長官が官邸に行くことはほとんどありませんでした。
一方、私が長官在職中は官邸に行くことがけっして珍しいことではなくなり、むしろ普通のことになっていました。また、総理以外の政権幹部等へは、長官のみならず、次長、海上保安監、担当部長、時には課長クラスも含め、頻繁に足を運んでいます。それほど海保のステータスが20数年前と比べて上がったということです。
さらに、海上保安庁は、内閣情報調査室をコアとする内閣のインテリジェンス体制「情報コミュニティ」にもしっかりと参画しています。
この分野で活躍しているのが、海上保安庁のインテリジェンス部門にあたる警備情報課という部署です。同課はさまざまな情報を収集・分析して政策判断に資する働きをしています。現場ではあまり目立たない部署ですが、中央では非常に大きな役割を果たしているのです。
世間には実態があまり知られていないが…
世間一般の海上保安庁に対する認知度や評価はどうでしょうか。
前述の海上保安庁の予算や勢力について、講演会などで一般の方に話をすると、よく「イメージしていたよりも意外と規模が小さいんですね」と言われます。
こうした反応に象徴されるように、海上保安庁はまだ多くの国民にとって「名前は知っている(あるいはニュースやドラマ・漫画などを通じて海難救助や領海警備の仕事をしていることは知っている)けれど、実態はあまり知られていない組織」なのでしょう。
これについては海上保安庁側ももっと発信力を強化して、国民の皆様に海上保安庁の実態について知ってもらう努力をしていく必要があると思います。
ただ、海上保安庁に対する世間の関心は、以前に比べて格段に高まっている実感はあります。
実際、私も退職後には「前海上保安庁長官」ということで、多くのマスコミから取材依頼を受けました。マスコミの関心はイコール国民の関心事です。それほど海上保安庁の考えや動向が国民的な関心事項になってきたのだと思いました(私が若かった頃の海上保安庁は、海上自衛隊と間違われるのが関の山というくらい超マイナーな組織でした)。
その一方で、海上保安庁に関するさまざまな“誤解”が世間に広がってしまっているという実感もあります。