「海保を軍事機関にすべき」論は正しいのか
たとえば、近年散見されるようになったのは次のような意見です。
「外国のコーストガード(沿岸警備隊)は一般的に軍事機関かそれに準ずる組織だ。しかし、日本の海上保安庁は非軍事の警察機関(法執行機関)だ。これは世界標準から見るとガラパゴス化している。海上保安庁を軍事機関(あるいは準軍事機関)にしなければ、中国の脅威にも対抗できないし、有事の際に自衛隊やアメリカとの連携もうまくいかない」
こうした意見には実はいくつか重大な誤解が含まれているのですが、一見もっともらしい内容なので、安全保障に関心が高い人ほどこうした意見に賛同しやすい傾向があるように思われます。
また、こうした意見を主張される方が決まって言及するのが海上保安庁法第25条(以下「庁法25条」)に関してです。
「庁法25条」を削除しても非軍事性は変わらない
庁法25条というのは、海上保安庁の非軍事性を明確に規定しているものであり、次のように書かれています。
「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」
海上保安庁を法執行機関から軍事機関に変えるべきだと主張する人たちの多くは、この庁法25条を削除すべきだと訴えています。すなわち、「海上保安庁法にこんな条文があるから海上保安庁を軍事機関にできない」さらに、「日本は世界から取り残されガラパゴス化している」という意見すらあります。ちなみに、庁法25条は「もう一つの憲法9条」とも呼ばれているそうです。
しかし、これも大きな誤解です。
庁法25条は、1948年の海上保安庁設立当初から存在する、海上保安庁の非軍事性を確認した規定です。これは本来当然のことを念押しする形で確認する、いわゆる「入念規定」であり、たとえこの規定がなくても、実は海上保安庁の非軍事性に変わりはありません。そもそもの話ですが、海上保安庁法に定められた任務や所掌事務の規定から見ても、海上保安庁が非軍事の法執行機関であることに疑いはありません。