富士フイルムHD 社長兼COO 
中嶋成博

いみじくも「生産技術」という言葉が出たが、この分野を専門にしてきたのが、古森の後を継いで12年6月に社長兼経営執行責任者(COO)に就任した中嶋成博である。ほぼ現場一筋で会社人生を過ごしてきた中嶋だが、モノづくりが急激にデジタル化していく中、最後の橋頭堡として残るアナログ部分、そこにこそ生産技術の強みが活かせると、自分が体験したある技術を引き合いに持論を述べた。

「コーティングヘッドといって、液体が十何層も同時に出てきてそれを塗りつける技術があります。その細い溝の所に乳剤が出てくるんですが、乳剤には銀が入っているので、連続して動かすと壁面に銀が付着して筋になる。

これを防ぐために竹べらでこすらなければなりませんが、20年、30年経験した人間でないとやらせてもらえません。僕もずいぶんチャレンジしたけど竹べらでこする感覚がさっぱりつかめなかった。

そういうアナログの強さというのは絶対に残るんです。デジタル化できない部分とは何か、そこが日本のモノづくりにとって最も大切なところだと思いますね」

富士フイルムにはフィルムの生産で培った膨大な化学物質のライブラリーがある。一説には20万種とも30万種ともいわれ、これらの組み合わせから新たなイノベーションが生まれる。「基本に戻って現場力を強化するのが自分の使命」と、中嶋は公言する。