2012年、名門企業の代表格である米国コダックが破産した。では、なぜ同社を追い続けた富士フイルムは、生き残れたのか。高い技術力を基にした商品戦略、徹底した自己変革の道筋が見えてきた。
コダックとの違いは多角化の幅と深さ
写真フィルムから派生した医療分野の製品は、富士フイルムの屋台骨を支える収益源に育っているが、その一方でスマートフォンやTVなど液晶パネルに欠かせない「偏光板保護フィルム」も、重要な収益の柱に成長している。
偏光板とは、特定方向の光だけを通過させる板状のフィルムのこと。液晶パネルには2枚の偏光板が用いられ、それぞれの偏光板には2枚の保護フィルムが使われている。その中でも天然素材の「タック」(セルローストリアセテート)を利用した保護フィルムは透明性が高く、優れた光学特性を持つといわれている。
富士フイルム製の保護フィルムは、80年代から電卓などの液晶ディスプレイに使用され、パソコンやテレビなどに用途を拡大してきた。現在、偏光板保護フィルムの市場は、富士フイルムとコニカミノルタホールディングスの2社のほぼ独占状態だ。
これまで富士フイルムは、経営の柱に掲げる「高機能材料」の1つに期待される保護フィルムに対して、3000億円を超える設備投資を続けてきた。今後は薄型テレビなどの大型ライン建設による設備増強から、スマートフォンなど中小型ディスプレイ向け製品開発や生産技術の高度化に投資の軸足を移す方針だ。
富士フイルムが得意とする保護フィルムの原料「タック」は、同社の創業から20年後の1954年、可燃性が問題になった映画フィルムを不燃性に替えるために新たに開発されたもの。この「タック」がさまざまな製品に用途を広げてきたのは先述の通りだが、「タック」を巡って90年代前半に富士フイルムとコダックの“命運が分かれた”象徴的なエピソードがある。