世間体を気にせず過ごせる社会

あと、特筆すべきは食事のおいしさです。そもそも食材が豊富なこともありますが、蔣介石の影響も大きい。蔣介石が本土から逃れてくる際に、中国文化の正当後継たらんとして故宮の美術品を持ち込んだというお話をしましたが、一流の料理人も共に台湾へ連れてきました。中国本土のさまざまな料理が台湾で堪能できるのですね。

留学先として台湾を選ぶ学生も増えてきています。コロナ禍前の2018年度は約5900人、日本人学生の留学先における5.2%を占めています(独立行政法人日本学生支援機構=JASSO調べ)。ここ数年の台湾のインフレと円安で一概にはいえませんが、他国に比べて台湾の一流大学の学費が比較的安いことも影響しているといわれています。

日常生活を送るのにも、台湾はとても快適な土地です。先ほど挙げたホスピタリティの一方で、台湾は日本に比べて同調圧力が弱く、気軽に生きていける社会風土があるからです。

もともと多民族・多言語の土地でしたから、そもそも同調させようとする素地がない。だから台湾の人々は、それぞれの違いを本能的に受け入れているのです。日本のような世間体を気にせずに行動できるわけですね。

同調圧力のない不思議な風土

私の知っている限りでいうと、日本のビジネスパーソンは、支店長として台湾にやってくると、日本に帰りたがらない人が多い傾向にあります。50代くらいまで同調圧力の強い日本の企業でもまれて疲れ果て、ある程度の「上がり」的なポジションで台湾に行く。すると、とても居心地がいいので、会社に頼み込んでなるべく長く居つかせてもらい、それが叶わないと会社を辞めてまで定住するという人を何人も見てきました。

「会社を辞める」ことが日常茶飯事の台湾の人たちは自然に迎えてくれます。他人がどんな人生を歩もうが知ったことではなくて、それよりも今自分と仲良くできるか、楽しくご飯を食べられるかに関心があるんですね。

私自身も、2016年に新聞社を退社してジャーナリスト活動を始めたとき、日本では「辞めたあとはどうするの」「生活は大丈夫ですか」などと、ある意味で親切だけれど、ある意味ではイラッとくるような質問を多くの人から聞かれました。そういうことを言う人に限って、具体的に何か応援してくれるかといえば、そういうことはなかったように思います。

台湾では、会社を辞めたと言ったら、ほとんど「ふーん、そうなんだ」という反応でスルーされ、なかには「おめでとう」などと祝福してくれる人もいました。

そんな不思議な風土に、ほれ込んでしまうわけです。まだ定住しているわけではありませんが、私もそのクチかもしれません。ちょっと私ごとが多くなりましたね、失礼しました。