台湾で最も重要な「政治家のステータス」

民主主義において、有権者が一票を投じるとき、何を基準に政治家を選ぶのか。極めて重要なテーマで明確な回答があるわけではないですが、台湾では疑いなく、学位・学歴が一つの政治家のステータスと目される要素があります。

歴代総統を見てみても、李登輝総統は京都帝国大学農学部卒業で、陳水扁ちんすいへん総統、馬英九ばえいきゅう総統、蔡英文総統の3人はすべて最高学府の台湾大学法学部の卒業です。李登輝総統は農学博士、馬英九総統は法学博士、蔡英文総統も法学博士を取得しており、超がつく高学歴です。

蔡英文総統
6月13日午後、パナマ共和国による中華民国(台湾)との国交断絶の決定に関して演説する蔡英文総統(写真=中華民国総統府/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

台湾メディアによれば、台湾の立法委員113人のうち、95%以上が大学以上の学歴を有しており、修士号取得者は53%、博士号取得者は20%に達しているといいます。

ひるがえって日本は博士号を持っている国会議員は極めて少ないというのが現実ではないでしょうか。学歴のかわりに、日本の政治家にとって錦の御旗となるのが「家柄」です。

日本では現在、3人に1人が世襲議員であるとされています。自民党に至っては4割だそうです。若手・中堅のホープでも、河野太郎デジタル相は父親が河野洋平元外相、小泉進次郎元環境相も小泉純一郎元首相が父親で、殺害された安倍晋三元首相も岸信介元首相から続く3代の政治家です。

修士・博士号は「肩書き」のため

台湾での統計はありませんが、実感として世襲議員は非常に少ないです。民主化後の歴代総統も親が政治家という人物は一人もいません。台湾で選挙がある前に次々と学歴不正が発覚して問題化するのは、不正を働いてまで、無理に苦労して論文を書いて学位を取得しようというモチベーションが働くからです。逆に、日本では学歴不正問題は台湾よりはるかに目立ちません。

台湾では、世襲議員が少ないことは、その歴史とも関係しています。台湾では民主化してからの歴史が浅いので、家柄以外で自分の魅力を打出すには学歴がベストなのです。筆者の台湾の立法委員の知人は、こう語ります。

「修士号や博士号がなければ当選しないわけではない。しかし、ないよりはあったほうがいい。名刺に入れられる肩書きも増える。選挙となれば数百票単位の争いになる可能性があり、少しでもプラスの材料になるものが欲しい」

台湾の政治家は、昼夜を問わず会合に顔を出し、いつもSNSをこまめに発信して、支持者やファンからの書き込みにもまめに答えています。学歴も含めて、それだけ選挙が厳しいことの裏返し、ということがいえるでしょう。