リンツが「とろけるチョコ」を発明した

カカオ豆を焙煎して粉砕したカカオマスにコンデンスミルクを加えても、油脂分と水分がうまく混ざらなかったら、なめらかで口当たりのいいチョコレートはできません。それを可能にしたのが、ロドルフ・リンツのコンチングの技術とコンチェの発明です。コンチングとは、チョコレートの材料を混ぜながら根気よく練り上げていく製法で、コンチェはそのための機械です。

そもそも、コンチングの技術は、偶然から生まれたものでした。2023年6月、ロドルフ・リンツの発明について、スイス・チューリッヒにあるリンツ本社を訪ね、お話を伺ってきました。

リンツ本社は、チューリッヒの中心部から車で15分ほどの緑豊かで閑静な地域にあります。近くにはチューリッヒ湖があり、鳥たちのさえずりがにぎやかに聞こえるような環境です。本社敷地内には、世界最大規模のチョコレート博物館があります。

スイスにあるリンツ本社
スイスにあるリンツ本社(写真=Roland zh/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

エントランスでは、高さ9メートルを超える「チョコレートの噴水」が出迎えてくれます。その迫力たるや、まさに圧巻で、建物中に甘いミルクチョコレートのいい匂いが広がり、全身がチョコレートで包まれるような感覚に陥ります。

かつてのチョコは砂っぽくてギトギト

インタビューしたのは、学芸部門の責任者シュテファン・シュナイダーさんと、ヨーロッパではテレビコマーシャルなどでも有名なメートル・ショコラティエのステファン・ブルーダラーさんです。

シュナイダーさんには、リンツとチョコレートの歴史について、博物館の展示室にある、コンチングの機械(コンチェ)の前でお話を伺いました。

ロドルフ・リンツがコンチェを発明したのは、1879年。この発明は、チョコレート業界全体を大きく変える、革命のようなものでした。コンチェが発明される以前のチョコレートは、砂のようでギトギトした食感でした。口の中でなめらかな感触を味わうには、チョコレートを噛んで、さらに溶かさなければならなかったのですが、コンチェの発明によって、チョコレートは口の中で噛まずとも、なめらかに溶けるようになったのです。

リンツはベルンにある2つの古い工場を買い取り、よりよいチョコレートを作る目的で実験をしました。彼は口溶けのよい、まろやかなチョコレートを作り出すために実験に実験を重ねましたが、しっとりしすぎたり、ココアバターが少なすぎたりして、なかなかうまくはいきませんでした。