※本稿は、山田昌弘『パラサイト難婚社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
子どもがいる場合、離婚で生活は激変する
経済的メリットや生活の安定性を考えた場合、「離婚」はどのような意味を持つのでしょう。結婚と同じように、離婚も「経済生活」に変化をもたらすイベントです。そして離婚による経済的リスクには、子どもがいるかいないかも、大いに関係してきます。仮に子どもがいないなら、離婚して人生の再スタートを切ることは比較的容易です。「離婚」したとしても、元の「独身」状態に戻るだけ、結婚前の生活に戻ればそれでいいからです。特に日本では、若いうちは親元に戻る割合が高く、再びパラサイト・シングル状態になる人も多いです。
しかしながら子どもがいる場合、「離婚」によって(元)夫婦の生活は激変します。どちらが親権を持つかにもよりますが、現在、親権を取得するのはほとんどの場合が母親ですので、こちらをメインに見てみましょう。
女性が「離婚」をすると、子どもの養育義務は一挙に女性の肩にのしかかってきます。手間暇ばかりでなく、コストの面からもです。本人がフルタイムの仕事をしていればそれなりに経済的安定性を確保できますが、自分の就業中に「家事育児を誰がするか」という問題が生じます。自らの父母と再同居もしくは近くに住んで面倒を見てもらう、もしくは家事代行サービスやシッターなどの外部委託に頼るかなど、保育所や学校ではカバーしきれない部分のケアも必要です。もちろん、それなりにコストもかかるでしょう。育児をしない夫であっても、いるだけましなのです。
「離婚・シングル・子持ち」が三重苦となる
より条件が厳しくなるのは、それまで専業主婦だった女性が離婚をするケースです。パート程度の収入の女性も同じです。別れた夫からある程度の生活費・養育費が振り込まれることはあっても、元夫が相当の高収入でない限り、それだけで暮らしを営む額を得られることはめったにありません。自身も働かないと、自分と子どもとの生活はままなりません。このあたりの事情が女性の経済的自立を阻み、「離婚」に躊躇する女性を多く生み出しています。「離婚」が「貧困」への入り口になってしまうケースが多いからです。
多くの企業は正社員を新卒一括採用で雇用するか、すでに就労経験のある人材を中途雇用で得ようとします。令和の現在でも、「これまで専業主婦でした」という女性を積極的に雇用し、職場でリスキリングする制度が整っているとは言えません。結果的に、彼女たちが働ける職場は時給も低く雇用も不安定なアルバイトやパートなどの非正規雇用となり、「離婚・シングル・子持ち」が三重苦となって、「貧困」に直結しやすいのです。接客を伴った飲食業(いわゆる水商売)であれば、収入はある程度確保できるかもしれませんが、今度は彼女たちの働く時間に子どもを預けられる場所がありません。
日本では児童虐待の件数も膨大ですが、その背景にも、「結婚」「離婚」にまつわる「子持ち女性の貧困化」という問題が根底に絡んでいるのです。