「聞いてはいけないタブー」に踏み込まない

顔見知りになると、相手のことをもっと知りたい気持ちから、「お仕事は?」「結婚は?」「お子さんはまだ?」なんてあれこれ詮索したがる人がいます。「なにか話さなきゃ」と思うあまりに、会話の糸口になる質問をしてしまうこともあるでしょう。

しかし、人によっては、触れてほしくない話題や、立場を抜きにしてつき合いたい場合もあるもの。なにより、自分の領域にズカズカと入り込んでこようとする姿勢に、心地悪さを感じてしまうものです。

マイクを向けられて嫌がる女性
写真=iStock.com/liza5450
※写真はイメージです

相手のことをよく知らなければ会話ができないわけではありません。

無難な話題で様子を見ながら、相手のほうから自分の仕事や家族などの話が出たときに、乗っかるほうが安心感があるはず。政治や宗教、収入、学歴、容姿などもこちらから触れるのはタブー。相手が話したいなら話してもらうのが礼儀です。

職業や年齢などを聞けそうな雰囲気なら、「私はリモートワークで……」「私は昭和生まれですけど、○○さんは?」とふんわりボールを投げてみるといいでしょう。

相手が乗ってきたら、「聞いてもOK」という合図。相手が言葉少なだったり、話題を変えたりしたときは、その意思を尊重して、話したい話題を深めていきましょう。

むしろ、相手の背景を知らないからこそ、心地よい関係が保たれる場合もあります。

私も伝統楽器の同好会に参加していますが、互いに顔と名前、電話番号以外は、ほとんど知らない関係です。だれも詮索しないし、自分からも言わない人たちだから、子どもからお年寄りまで同じ立場で気楽に音楽を楽しめているのかもしれません。

それでも、会話のなかでふとした瞬間に「昔、そんな仕事をされていたんですか!」「意外に家が近かったんですね」と相手を知ることがあり、自然に少しずつ関係が深まっているような気がするのです。

「相手が話したいことを聞く」「相手が話したくないことは聞かない」は、とても大切な会話のマナーなのです。

「決めつけない」人は、心が開いている

他人のことを「こういう人だから私とは合わない」と、決めつけてしまうと、顔見知りが増えなくなってしまいます。

たとえば、近所に引っ越してきた人が「派手な格好で苦手なタイプだな」と思うと、あいさつもしなくなってしまう。また、相手の肩書きや職業で「あの人とは住む世界が違うから、話も合わないだろう」と思うと、態度もよそよそしくなるでしょう。

とくに、繊細な人は、相手の苦手な部分を敏感に察知したり、ちょっとした言葉に傷ついたりして、ネガティブな印象をもってしまう傾向が強いかもしれません。

しかし、私たちが見ているのは、ほんの一部。第一印象や先入観で「この人は○○な人だ」「嫌い」「合わない」と決めつけてしまうのはもったいないことです。

顔見知りがたくさんいる人は、自分との違いを「自分のまわりにいないタイプなので、面白い」「自分にはない部分を尊敬する」とポジティブにとらえています。

肩書きや職業にとらわれず、フラットな視点で「この人はどんな人なんだろう」と好奇心をもって好意的に眺めています。人に対する間口がゆったり広いから、さまざまな人が集まったり、人が人を連れてきて、つき合いの輪が広がったりするのです。

「先入観」は多かれ少なかれ、だれしもあるもの。もちろん、私にもあります。

そこで、ネガティブな印象や苦手意識にとらわれそうになったら、「そうともかぎらない」と考えるようにしています。「なんだか怖そうだな。でも、そうともかぎらない」「話が合わなそうだが、そうともかぎらない」というように。

すると、心の壁がなくなって話しているうちに、印象が変わってくる。「最初の印象は最悪だったけど、あるとき気が合って長いつき合いになった」という人もいるのです。

「だれもが意外な面をもっている」「わからないことは山ほどある」と思うことは、人への愛と理解を深めることにもなります。「どうしても合わない」と決めるのは最後の最後にして、ゆったり構えて、ゆっくり理解していきましょう。