「暗記科目だから地理は嫌い」という学生は多い

大学で教えるようになると、毎年入学してくる学生たちが中学・高校でどのように地理を学び、何を身につけてくるのかが気になるようになります。

ある年、地理学専修の私の学生が卒業論文のための研究で、大学1年生に「地理好き・地理嫌い」に関する質問紙調査をおこなったことがあります。いろいろ面白いことがわかりましたが、やはりと言うか、地理が嫌いだという学生のほとんどが、暗記科目だから嫌いだと考えていることがわかりました。

必履修化された高校の地理総合で地理の魅力を伝えることさえできれば、地理好きは今後どんどん増えてくると確信したのです。

「なぜ熱帯の国では焼畑をするのか」への答え

地理的思考力といいますが、具体的にどんなことを指すのでしょう。その一つは、文化の地域的多様性が生まれる原動力として、環境への文化的な適応と呼ばれるはたらきがあることです。

多くの皆さんにとって良くないイメージがあるであろう「焼畑」を例にとってみます。焼畑は現在でも熱帯の国々でさかんにおこなわれている農耕文化の一つです。なぜ、熱帯では焼畑がさかんなのでしょうか。

この質問に対してよくある答えは、熱帯の国々は発展途上国で、焼畑はそうした発展途上の社会でおこなわれる「原始的農業」だからというものです。熱帯の焼畑については、過去にいろいろな偏見が積み重なり、そうした偏見が私たちの合理的な思考を妨げています。

例えば、「熱帯の土壌は貧栄養なので、耕作を続けると短期間で不毛になってしまう。だから次々と新しい土地を開墾しなければならないのだ」とか。東南アジアやラテンアメリカで森林火災がニュースになると、焼畑によるものだという報道がなされることも珍しくありません。

でも、これらは全て間違いです。熱帯土壌の性質と焼畑との間に直接の因果関係は認められていませんし、熱帯林で起こる火災の原因の多くは焼畑とは直接関係のない、プランテーション造成などの土地開拓に由来するものです。これらの偏見は、「熱帯の文化は遅れており、ヨーロッパの文化は進んでいる」という19世紀の思想の名残だと言えます。

焼畑は、実は熱帯の気候に高度に適応した農耕技術です。植物の繁殖力が旺盛な熱帯では、農業は「雑草とのたたかい」になります。焼畑は、作物の収穫に深刻な影響を与える強害雑草を死滅させるために、自然の力で畑を森にかえし、雑草を死滅させた後で再び農耕をおこなうものです。