ノウハウがなければ足手まといになってしまう

熊本地震でも最初期に支援物資が届いた避難所と、届くのが遅れた避難所に差が生じたがこれもロジ担への支援が遅れたことが原因だった。当時、熊本県庁を取材したが職員は「物資はある、しかし物資を差配する職員と自治体で連絡調整を担当する職員が不足している」と実情を語っていた。ロジ担への支援はすぐに整い、それにあわせて支援のグラデーションは解消されていった。指揮命令系統とロジの重要性を物語る場面だった。

私が能登半島地震で最初期の現地入りを見送った理由もここにある。私には石川県、それも能登半島の土地勘もなければ、取材に必要な情報を集めるルートもない。道路の状況も報道以上には知らない。過去の教訓から季節にあわせて必要な衣服や食料や水などいつでも災害取材に行けるセットは用意しているが、フリーランスのライターが一人で現場とロジ担を兼任するのは明らかに悪手であることはここまで説明した通りだ。

雪が降り積もった冬の輪島(2023年12月23日)
写真=iStock.com/Sean Pavone
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現地に取材者の受け入れ先があるか、大手のメディアと組んで取材をするか災害対応のノウハウを持つNPOに同行できれば、ロジ担のバックアップを得られて負担は格段に減るが、それがない以上災害報道の原則を守ることはできない。よって見送るのが妥当と判断した。

「現地入り自粛」のなかで成果はあったのか

山本氏の行動を検証してみよう。彼を擁護する人は結果的に1月14日になった岸田文雄首相の現地入りと比べて早いことや、ニーズを聞き取ったことを評価しているようだ。どのようなバックアップがあったか定かではないが、受け入れ先はあったようだ。いまさらカレーを食べた一件を論じることはしないが(災害取材ならば一切肯定できる行為ではないことは明記しておく)、可能な限り自立的な方法を模索した跡は見受けられる。

その上で大事なのは、山本氏には特有の事情があることだ。彼は民間のボランティアやジャーナリストではなく国会議員だ。能登半島特有の道路状況、地元自治体のアナウンスは知りうる立場にあった。国会議員が現地を見る意義は間違いなくあるが、なぜ最初期に自民から共産まで一致して――そして与野党ともに災害救助やボランティアの知見を持った議員はいるなかで――「救助活動や支援物資輸送の妨げになるのを避けるため」(時事通信)現地入り自粛を申し合わせたのかもわかっていたはずだ。

だからこそ政治家として視察の成果は問われる。公然と他党と違う行動をとったことで、どのような成果を得て、肝心の政策や提言、議論にどこまで落とし込まれているのかは現段階ではあまり見えてこない。