現地に入らずとも分かることばかりを提言

5日の視察を終えた山本氏は、Xに長いポストを投稿している。現場を見たという熱は伝わるが、現実にどう落とし込めばいいのか具体策に乏しい。

在宅や車中の避難者のケアが必要だとして「全国の保健師を1人でも多く被災地に派遣し、在宅避難者や車中泊避難の状態把握が何より優先させなければならない」と記しているが、山本氏に言われるまでもなく行政は動いている。これ自体は誰もがわかっている凡庸な提言であり、車中泊ケアのための支援物資も送り込まれた。保健師を円滑に派遣するために、国会議員が率先して「最初期」に限定して積極的に道路を使わないことをアピールすれば良かったのではないかという批判は成立する。

災害時の保健師の役割や研修については、ロジ担の重要性とともに全国保健所所長会もホームページに過去の教訓として資料が上がっている(例えばこの資料)。

「被災経験、対応経験のある腕利きを国や各自治体から多く、できる限り各被災町村に長期間派遣するべき」という提案も現場を踏まえれば理想的であることはわかる。しかし、職員はモノではなく人間だ。新聞記者であっても災害の応援取材は2週間をめどに交代が命じられた。精神的な負担や疲労で判断力が鈍ることを考えれば、当然の命令だ。

災害の現場を知っているのであれば、そして被災を経験した職員を人間として見るのであれば、長期派遣に耐えられるという発想は最初から出てこない。神戸市は阪神大震災を経験し、東日本大震災の支援にもあたった職員を派遣していることも指摘しておきたい。

かつて問題視された「押しかけボランティア」

10日にあった二度目の視察の後となる1月13日に発信された山本氏のXでは、現場報告のあとの結論部分で大型船を使った支援の重要性が説かれていた。1月14日時点から、石川県七尾市の七尾港にチャーターした防衛省がチャーターした大型フェリー「はくおう」が入港して救援活動を始めている。

「自衛隊は平成28年の熊本地震でも同様に民間船を展開し被災者らが使った。今回もニーズがあると判断し、チャーターした民間船を被災地に派遣した」(防衛日報オンライン版)という。現場のニーズをキャッチする知見は救助にあたる防衛省でも消防、行政にも積み上がっている。さらに船上からの支援を充実させろという提案は理解できるが、自衛隊が現実に動ける範囲で山本氏の提案はすでに実行に移されている。

山本氏の行動が現地の支援者やたとえ一部であっても住民にプラスの効果を与えたことまでは否定したくはない。SNSの視察報告も決して無駄で片付けていいものではない。繰り返しになるが、彼はあくまで国会議員だ。仕事の評価はスタンドプレー以外で下される必要がある。

押しかけボランティアも同様だ。彼らが押しかけることで支援が進むという側面がないとは言わない。しかし、地理的特性まで踏まえれば早期の行動が吉に出るとは限らない。それは現地に押しかけたボランティアが支援活動にあたったことで、いたずらに行政の混乱を招いた熊本地震の教訓でもある(実害が生じた事例)。

2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた阿蘇神社で建物が倒壊
写真=iStock.com/Amenohi
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