「今」掻き立てられる欲求を満足させたい現代の消費文化

一方で、カジュアルにオタクを名乗る層だけではなく、多くの消費者がこれまで以上に「即時的な満足」を求めるようになり、「その瞬間を楽しむタイプの消費」が目立つようになった。

廣瀬涼『タイパの経済学』(幻冬舎新書)
廣瀬涼『タイパの経済学』(幻冬舎新書)

私たちの生活にSNSが根付き、昔に比べて圧倒的に情報量が増えた。情報に溢れているということは消費したいと思う興味対象も総じて溢れているわけで、一つの消費対象に固執するよりも、消費一つ一つにかかるウェイトを軽減し、スピード感や手軽さ、まさに「ファストな経験」や「ファストな消費」が求められている。だからこそ私たちは、サブスクやシェアといった所有しない選択肢も享受するし、一度使えば満足し、まだ使用感が薄いうちにすぐフリマアプリに出品する。

現代の文化にまつわるムーブメントは、一緒になって瞬間的に盛り上がる集合的沸騰の形式で現れることが多く、短命で、また時空間として非常に拡散した場所で起こる。趣味にしても、日常から得られる刺激にしても、消費者の興味は移り変わりやすく、同じモノやコトに留まるのは不可能といえるだろう。

私たちの興味の中心となるのは「今」であり、その「今」掻き立てられる欲求の多くは、即時的に満たされ、満たされればすぐに、「今」満たしたい別の欲求が生まれ、さっき消費したモノのことなどすぐに忘れてしまう。消費者にとってはその瞬間が満たされればいいだけだから、その消費に時間も手間もかけたくないし、旬を逃したくない。

高額な転売商品を買ってしまう人には理由がある

人気YouTuberのHIKAKINが立ち上げたブランド「HIKAKIN PREMIUM」の商品として、2023年5月にセブン‐イレブンで「みそきん」カップ麺&カップメシが販売された。発売当日は全国的に品薄となり、買えなかった消費者も多かった。

消費者はその味よりも、HIKAKINがプロデュースしたという点や間違いなく話題になるという点に価値を見出しており、そのネタの旬を逃すまいと、高額で転売されているフリマサイトから購入する者も散見された。

どこで売っているかも、いつ再販されるかもわからない商品を待つことで生まれる心理的ストレスや、そもそも自分自身の興味が移りやすいことを自覚しているからこそ、「今」を逃すと他の興味に埋もれてしまうというリスクを考慮に入れ、割高でも確実に数日後には家に届いているという点がフリマアプリが選ばれる要因となるのだ。まさにコスト度外視でタイパを重視した消費といえるだろう。

コメントby SERENDIP

著者は、「○○の状態になる」ためのタイパ追求サービスの事例として、パーソナルトレーニングをサポートするRIZAPグループが始めた「chocoZAP」を挙げている。服装自由で気軽に短時間でもトレーニングができる「コンビニジム」を謳うサービスだが、痩身や筋力アップといった効果よりも「健康を気づかいジムに通っている」という状態に、タイパよくなれる点がヒットの要因と分析されている。主にジム未経験者をターゲットにしており、従来のRIZAP会員や他のジムの会員からの移行は少ないと思われる。その意味でタイパは、より多様な市場を生み出すきっかけも作っているのではないだろうか。

  • コンテンツは、㈱情報工場が運営する書籍ダイジェストサービスSERENDIPの一部です。
  • ダイジェストは、出版社もしくは著者の許諾を得て作成しております。
  • ダイジェスト本文の一次著作権は、正当な権利を有する第三者に、二次的著作権は㈱情報工場にそれぞれ帰属し、その他のコンテンツの著作権は、全て㈱情報工場に帰属します。
  • 本コンテンツを個人利用以外で許可なく複製、転載、配布、掲載、二次利用等行うことはお断りしております。
【関連記事】
だから世界一幸せだった国・ブータンの幸福度が急落した…「他人の芝生が見えすぎる」時代に自分を貫く方法
なぜ大人世代には「人気ユーチューバーの面白さ」がわからないのか…「ひき肉です」や東海オンエアの共通点
ドラクエ、スーパーマリオをしのぎ1位に君臨…ゲーム会社ではないのに「スイカゲーム」大ヒットのワケ
「ホームパーティ」がない日本人は幸せである…海外のSNSにあふれる「リア充たち」の恐ろしい裏側
銀座ママが「LINEを交換しよう」と聞かれたときに必ず使う"スマートな断り文句"