仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは廣瀬涼著『タイパの経済学』(幻冬舎新書)――。
テレビを見る女性
写真=iStock.com/EKIN KIZILKAYA
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イントロダクション

「タイパ」という言葉を耳にする機会が多くなった。「若者言葉」の一つと認識している人も多いだろう。ネットで配信された映画やドラマを倍速で、あるいは「ファスト映画」と呼ばれる違法アップロードの要約版を視聴したりする人が目立つようだ。

タイパが重視される風潮の背景には何があるのだろうか。

本書では、タイムパフォーマンス(時間対効果)を略した造語である「タイパ」に焦点をあて、それを追求するメディア視聴や消費行動の理由、背景にある意識変化などについて、消費文化論の視点から考察している。

タイパの性質の一つに「手間をかけずに○○の状態になる」があり、例えば「オタク」とみなされるためにタイパを追求するケースもあるという。

著者はニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て2019年ニッセイ基礎研究所に入社。10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。

1.タイパの正体
2.「消費」されるコンテンツ
3.Z世代の「欲望」を読み解く
4.タイパ化するマーケット
5.タイパ追求の果てに

「手間をかけずに○○の状態になる」というタイパの性質

2022年、三省堂が発表する「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』」において、その年を代表・象徴する新語ベスト10の大賞に「かけた時間に対しての効果(満足度)」や「時間的な効率」を意味する「タイパ」が選ばれた。

きっかけは2021年、ファスト映画(ネタバレを含む要約された動画)の投稿によってアップロード主が逮捕されたことであっただろうか。違法性のあるファスト映画をなぜ人々は消費するのか。メディアがその背景を探るうえで「タイパ(タイムパフォーマンス)」というキーワードに着目し、効率性をとくに求める若い世代の消費行動は、それ以前の世代と比較すると「タイパ」追求型である、といった文脈で使われるようになった。

まずタイパの性質を3つに分類したい。

(1)時間効率
(2)消費結果によって、かけた時間が評価される(主に消費後)
(3)手間をかけずに○○の状態になる(主に消費対象を検討するうえでの指標)