ビジネス需要ではなく、移動を楽しんでもらう

また、翌1999(平成11)年には「北斗星」のサービスアップというかたちで「カシオペア」が誕生した。こちらはJR東日本が新たに開発したE26系客車を使用している。

JR東日本の「カシオペア」用寝台客車E26系、スロネフE26側
JR東日本の「カシオペア」用寝台客車E26系、スロネフE26側。尾久―上野(日暮里―鶯谷)間にて。(写真=Sui-setz/PD-self/Wikimedia Commons

JR東日本では将来の寝台車を模索するため、1989(平成元)年に寝台車・食堂車・ロビーカーの3両を試作している。車体の基本的な構造や台車・ブレーキなどの走行機器は「北斗星」などに使われていた24系客車に合わせ、車両形式も24系を名乗った。3両は「夢空間」と命名、「北斗星」編成に組み入れ「北斗星トマムスキー号」「夢空間北斗星」などとして運行されている。

E26系客車は新規に開発されたものだが、そこに込められたコンセプトは「夢空間」の運用経験が活かされたものと思われる。例えば、すべてA個室寝台で、しかもすべて2人用(一部、エキストラベッドにより3人でも使用可能)だった。ビジネス向けの利用は一掃し、汽車旅を楽しむ人に特化したサービスに徹したものとなっている。

ペアスイートから見える景色
筆者撮影
ペアスイートから見える景色
食堂車
筆者撮影
食堂車

夜行列車史上最も多彩なサービスを展開

車体構造も吟味され、従来の鋼製からステンレス製軽量車体となった。ただし、編成両端の車両はデザイン的な制約から一部が鋼製となっている。車内サービス用の電源は20系客車や24系客車と同じく電源車方式としているが、機器室を下層に収め、上層はフリースペースの「ラウンジカー」となった。

ロビーカーの内装
筆者撮影
ロビーカーの内装
松本典久『夜行列車盛衰史』(平凡社新書)
松本典久『夜行列車盛衰史』(平凡社新書)

1999年7月16日から上野〜札幌間を結ぶ寝台特急「カシオペア」として運行を開始したが、E26系客車は12両編成1本しか製造されなかったため、毎日運転はできず、2016(平成28)年の定期的な運行終了まで終始臨時列車の扱いだった。なお、「カシオペア」の運転開始に合わせて「北斗星」は3往復から2往復へと減便されている。

この285系電車、E26系客車という新型車両では、これまでにない個室寝台も導入された。新しい寝台としては「サンライズツイン」「シングル」「カシオペアスイート」などが登場しているが、料金もそれぞれで設定され、寝台の名称や料金区分は複雑を極めた。

このほか、先述の285系電車「ノビノビ座席」、あるいはこの時代「あかつき」に連結されていた「レガートシート」、急行「はまなす」の「カーペットカー」「ドリームカー」などもあり、日本の夜行列車史上最も多彩なサービスを展開していたことになる。

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