ジョンソンのように「大統領選撤退」もあり得る
民主党のリンドン・ジョンソン大統領(当時)は1968年の大統領選挙の年の3月、民主党が大統領候補を正式決定する全国大会のほんの数カ月前に不出馬を表明し、党を混乱の極みに陥れた。
ジョンソン政権はベトナム戦争において、大本営ばりの嘘をつき続けていた。その不満に加えて、「貧困との戦争」や黒人公民権の拡大など、ジョンソン政権の先鋭的な社会政策が次々と失敗し、支持率は30%台まで落ち込んでいた。
民主党内の対抗馬であったロバート・ケネディ上院議員(元司法長官)がベトナムからの撤退を主張して大統領選に立候補して人気を集める中、ジョンソン氏はあっさりと2期目の可能性を自ら断った。このケネディ上院議員が6月に暗殺されたことを受けて民主党の大統領候補となったヒューバート・ハンフリー副大統領は不人気で、共和党のリチャード・ニクソン候補と争って敗れることになる。
それは、その後およそ四半世紀にわたって米国が保守化した時代へのプレリュードとなった。
ベトナム戦争と規模は違うが、バイデン政権はアフガニスタン撤退作戦において失敗しているほか、ロシアのウクライナ侵攻を招いた弱腰、中東問題への対応、南米ベネズエラによる隣国ガイアナ侵略を呼んだとされる妥協的な外交など、失策が続いている。
ジョンソン政権末期の状況に似ている
国民の生活水準の悪化はもとより、急進的なジェンダー・セクシュアリティ政策や、「開かれた国境」による無制限な難民・移民受け入れ、人種間の「結果の平等」政策は米社会の分断を深め、環境・エネルギー政策においても非現実的な電気自動車(EV)普及目標や再生エネルギー開発プロジェクトなど、挫折の連続だ。
これは、悲惨なジョンソン政権の末期の状況に似ていなくもない。
失敗がひとつやふたつであれば取り返せるが、大きな戦略の失敗は小さな戦術の成功でも取り返せない。
もちろん、トランプがなにかやらかして、そのオウンゴールによってバイデンが再選するというシナリオも残る。だが、トランプ前大統領は一連の公判に関して米連邦最高裁判所などを味方につけた引き延ばし作戦に成功しつつあり、逃げ切れる可能性が高まっている。ロイター通信が8月に実施した世論調査では共和党支持者の52%が、「トランプ氏が収監されるようなことがあれば、票を投じない」と回答しているが、有罪評決や懲役さえ回避できれば、より多くの票を確保できる。
そうした中、民主党支持者を含め米国民のバイデン氏の失政に対する怒りは積み上がっている。そのため、12月21日付の英フィナンシャル・タイムズ紙社説が指摘するように、「米国人をいくら脅かしてもトランプ嫌いにはならない」のである。
「不適格」のトランプ前大統領がバイデン氏よりも信頼と票を集め、返り咲く可能性は小さくない。