ダメになるほど強気の姿勢は崩せない

――経済成長が頭打ちになるなか、今後の習近平政権は戦狼的な姿勢を緩めたり転換したりする可能性はないのでしょうか?

習近平自身がどういう意向を持っているかとは無関係に、多少の調整はあるとしても、なかなか止められないと思います。国家や組織にとって本来望ましい方向を考えるなら、戦狼的な姿勢なんかやらないほうがいいに決まっているのですが、官僚たち「個人」が組織内で生き抜く上での最適解は、組織全体の最適解と同一ではありません。日本のサラリーマン組織も同じかもしれませんが。

関西の反体制活動家の潜伏先を監視する中国公安局の手先
関西の反体制活動家の潜伏先を監視する中国公安局の手先(提供=安田峰俊)

国際協調を重視すべきとか、バランスの取れた外交をなどと提起しても、上から「消極的」と判断されて自身の評価が下がるリスクがある。みんなが頭のどこかで「このままではまずい」と思っていても、誰にも止められない構造がある。第二次大戦中に満州で暴走した関東軍と近い状態かもしれません。いまの状態は当分続くと考えられます。

彼らの価値観はどこまでも内向きで、他国から自分たちがどう見られているかということを、ほとんど考えようとしません。

加えて、中国はありのままで良いのだ、欧米の真似をする必要なんてないんだという姿勢は、中国国内の大多数の人々にとっては非常に心地よく、受け入れやすい。“中国スゴイ”というメッセージだけがばら撒かれているのが現状です。

欧米の国家システムや思考・技術などから、学べるものは学び取ろうとしていた胡錦濤政権(2003年〜2013年)までの時代とは、大きく異なります。

余裕があるほど外交は“粗く”なる

――この10年ほどの間に、中国のイメージはすっかり変わってしまったわけですね。

大陸の中国人のみならず、香港や台湾に住む人々も含めて「華人」全体がそうかもしれませんが、彼らは自分たちが弱い立場にいる間は、驚異的に「したたか」になれます。2019年に香港でデモが起きた際、民主派の人々は日本や欧米の心を非常に巧みにつかんでいましたよね。いまの台湾が、「媚び」と言っていいほど日本を上手に持ち上げて日本側に親近感を抱かせるのに成功しているのも、自分たちが力では中国より劣っていることを自覚しているから。生き残り戦略の一環でもあるでしょう。

ただ、自分たちの図体が大きくなると粗雑になる(笑)。これは華人に限ったことではないかもしれません。

諜報活動については、イスラエルのような国のほうが、アメリカよりもずっと優れていると言われますよね。イスラエルの場合、少しのミスが国家の存亡に関わるわけですから。でも、アメリカは多少粗雑なことをしても国が潰れることは決してない。中国についても似た部分があるかもしれませんが、中国はより極端です。