攻撃的な態度や言葉遣いで相手国を責め立て、時には国際法規をやすやすと踏み越えてくる、近年の傍若無人な中国。『戦狼中国の対日工作』(文春新書)を書いたルポライターの安田峰俊さんは「西側先進国の『自由』な社会は、中国の工作員にとって非常に活動しやすく都合が良いという現実がある」という。ライターの西谷格さんが聞いた――。(前編/全2回)
コロナ禍で自信をつけた中国
――「戦狼中国」とは耳慣れない言葉です。ただ、中国の外交官が、西側諸国にことさら敵対的な姿勢を取る「戦狼外交」は有名ですよね。例えば福島第一原発の処理水放出時に中国は日本に対し「全世界に核汚染のリスクを転嫁することであり、不道徳で非合法だ」、「強烈な非難を表明する」などと猛反発しました。
西側諸国に対して敵対的な「戦狼外交」は習近平政権が2期目に入った2017年秋以降、とりわけ2019年9月に習近平が外交部の青年幹部に「闘争精神」を呼びかけた頃から明らかに強まりました。当時はすでに米中貿易摩擦が激化していましたが、中国経済は表面上は堅調で、2021年から本格化した「ゼロコロナ政策」では当初、西側民主主義国家よりも中国のほうがコロナ対策に“成功”しているように見えた。自国への自信を深めたことが、「戦狼外交」が生まれた背景にあると言えます。
ただ、実は戦狼外交的な姿勢は外交部だけじゃない。公安部も国家安全部も、党の宣伝部も統一戦線工作部もみんな戦狼的な前のめりさを見せるようになっています。なので本書のタイトルは「戦狼中国」、中国に寄る外交面だけに限らない対日工作の実態を伝えることにしました。