一度変更したものを元に戻しても“まったく同じ”ではない

【デューイ】いや、それでいいのです。同じ結論のように見えても、前とまったく同じということはありませんから。

【ベテラン役員】それでいい⁉ 回り道をして時間をムダにすることのどこがよいことなんだ。

【デューイ】たとえば、ある会社で、紙の資料を全面廃止して、タブレットに統一したとしましょう。紙だと経費がかさむとか、取引先に送りにくいとか、そういった問題点を克服するために、タブレットでデジタル改革をしようとしたわけです。ところが、その後でやっぱり紙のほうリアルな会議なんかでは重宝することがわかって、結局不便なときは紙も使おうという方針に戻った。こういうことってありますよね?

【ベテラン役員】あるある。うちの会社も「これからはデジタルの時代だ」とかなんとかいっていたが、紙がないとやりづらいこと多いんだよね。で、タブレットのデータを紙に印刷したりして、結局は紙もときどき使うことになってしまった…。最初から紙でやり通せばよかったんだよ。

書類やラップトップが置かれたビジネスデスク
写真=iStock.com/Phira Phonruewiangphing
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「疑念」のある不確定な状況から新しい「信念」へ

【デューイ】いや、それでよいのですよ。当初は紙かデジタルか、どちらが真理かは決まっていなかったわけですから。ところが臨機応変に考えることで、デジタルと紙を使い分けていくという新しい発想が生まれてくるわけです。

【ベテラン役員】そうなのか……。

【デューイ】思考を変えていくことで、当初は「紙を使うことが正しいのか?」という矛盾した不確定な状況、言いかえると「疑念」のある状況であったのが、「やっぱり紙がよかった」という場面があるのがわかった。そして、状況に応じてタブレットも使えば紙も使うという矛盾のない確定した状況に落ち着きました。これは、新しい「信念」にいたったといえます。もちろんこの状況もまた、変化すると思いますが……。

KEYWORD 信念
デューイの言及した「信念」とは、「ある事実が『信頼可能』であるかどうか」という真理についての概念である。
現時点で「正しい」とされているものでも、それは、常に疑いを含んでいる。つまり「正しい」とされていることは、単に「その時点での真理」なのであって、実は「仮説」である。よって、この「仮説」は科学的検証を受けた場合、新しい真理へと入れ替わっていくこととなる。