「正しいこと」は探求によって獲得される
【ベテラン役員】堂々巡りをして似たような結論になっても、それが「信念」に変わっているからいいというわけか。
【デューイ】そうなります。人間の思考は、矛盾した不確定な現状から、矛盾のない確定した状況にいたる探求なんです。「正しいこと」とは探求によって獲得されるもので、真理は無限に続く探求の一過程なのです。
【ベテラン役員】正しいことっていうのは、コロコロ変わらないから真理っていうのではないのかい?
【デューイ】それはソクラテス以降の古い思想で、新しい哲学では、「真理」と呼ばれているものがどんどん変わっていきます。
【ベテラン役員】だったらさっきの例だと、またやっぱりデジタルのほうが便利だということになれば……?
【デューイ】そのときは実験検証を経て、またデジタルに戻すのです。もっとも、そのデジタルのシステムもいずれまた検証されて、新しい形のなにかが出現するかもしれませんが……。
知性の価値は実際的に役に立つところにある
【ベテラン役員】あんまりいうことがコロコロ変わるやつは、賢くないと思われそうだがね。
【デューイ】いえ、そうした知性もまた、「生活改善などをする道具」なのです。この知性という道具は、実験的知性と呼ばれます。
道具主義では、人間と環境の関係が不安定になると、その解決のために探求が始まり、この探求に知性が働くと考えられている。人間の知性は、具体的な見通しを立てて問題を解決しようとする。これが実験的知性(創造的知性)である。
【ベテラン役員】ひとつのことだけに捉われるのではなく、問題が起こるたびに考え直していくのが「知性」だ……それが君の主張というわけだな。
【デューイ】そうです。ひとつのことに執着して、それが絶対に正しいと思い込むのが一番よくないのです。知性の価値は有効性、つまり実際的に役に立つところにあります。だから、どんどん実践して、その結果から正しいことをつかみ取っていくのです。
【ベテラン役員】そうか……。最初は変なことをいうものだと思ったが、君の説は現代的でいいかもしれないな。どうだね、さっそく考え直してみたんだが、君、ウチの会社に来ないかね。
【デューイ】いえ、遠慮しておきます。