「韓鶴子総裁のお住まいになっています」
キムさんの後について、私は大理石でできた階段を上っていった。勾配はややきつく、ぐるりと回り込むようなカーブを描いている階段だった。キムさんによれば、韓国国内でここまでのきれいな弧を描いている大理石の階段はかなり珍しく、石材会社の職人たちが、見学に訪れるほどだという。
そんな大理石の階段を上り切った場所は、地下1階に比べるとやや狭い空間だった。「天地人 真の父母像」が鎮座している吹き抜けになっていることで、その空間を取り囲むような限られたスペースになっていることに加えて、左右に壁があって扉があったからだ。
ただ、正面は大きく開いた入口となっていて、その先にはギリシアのパルテノン神殿のような巨大な柱が並んでおり開放感がある。いわゆる柱廊式玄関という様式だ。
そんなフロアの中ですぐに目についたのは、人間が3人ほど並んだくらいの大きさの巨大な紫水晶だった。キムさんによれば、韓氏の誕生日に、ブラジルの教会から贈られたものだそうだ。これほど大きな紫水晶は珍しく、値段がつけられないほど高額なのでスタッフも扱いに困っているという。また、壁を見ると北朝鮮からやはり誕生日に贈られた書簡や、世界中のVIPからの手紙などが飾られている。
それを眺めているうち、ある扉に気がついた。きれいな装飾がなされて、床には赤い絨毯が敷かれていた。もしかして、この先には。キムさんの方を振り向くと、私の考えを察したのか、彼はにこやかに頷いた。
「そうですね、ここから先は韓鶴子総裁のお住まいになっています」
「マザームーン」への取材は認められなかった
テレビや新聞で連日のように報じられた「マザームーン」が、この扉の先にいる。ぜひ実際に会ってみて、日本国内で批判をされていることなどについてどう考えているのかを聞いてみたいところではあったが、残念ながら今回は韓氏への取材は認められていなかった。
もちろん、冷静に考えれば認められるわけもない。信者たちが敬愛している「真のお母様」を、ワケのわからない日本人のフリーライターなどにひき会わせて、もし何かご機嫌を損ねるようなことをしてしまったら、取材を申請した日本教会の人々だけではなく、韓国本部の人々もただで済まない。
いつか機会があればインタビューをしてみたいものだ、と思いながら私は巨大な柱が並んでいる正面入り口を出た。
天苑宮内部についての説明を受けた後、続いて建物前の「芝生広場」へと移動した。正面エントランスとつながった回廊で囲まれたこの芝生広場の地下には、イベントホールやカフェ・フードコートがつくられて、信者たちの憩いの場になるという。