工房に掲げられた弥勒菩薩坐像の写真
造形も独特なら、製作過程も独特だ。
「今、30体ぐらいの新作を同時平行で彫っています。効率化を図っているわけじゃありません。仏像って面白くて、自分のその時の感情とかフィジカルの状態が鏡のように出ちゃうんですよ。例えば、気が高ぶってる時に穏やかな仏さまを彫るとものすごく怖くなったり、その逆も然り。だから、僕は座禅とか歩行瞑想をしながら常に自分の気持ちと体を内観して、その調子に合った仏さまをチョイスして彫っているんです」
現在、同時進行している作品のなかには、賀茂御祖神社(下鴨神社)祈祷殿に安置される獅子と狛犬、木曽檜で造る大型の釈迦如来坐像なども含まれている。愛媛県のお寺から依頼のあった三十三観音像は、40歳の時に1体目を造り始め、まだ未完成。三十三番目の仏像が納品されるのは、2041年を予定する。
宮本さんの工房には、かつて大きなショックを受けた快慶作の弥勒菩薩坐像の写真が掲げられている。そして、新しく仏像を造る時には、弥勒菩薩坐像の図録を広げて、黄金比を頭のなかに刷り込んでから、仕事にとりかかる。といっても、今は快慶を目指しているわけではない。
「快慶さんの時代は国家規模で仏教を守り、盛り上げていました。宗教ルネッサンスがすごい勢いで花開くなかで弥勒菩薩坐像ができたと思うと、令和のこの時代に同じものを求めても土台無理だと悟ったんです。じゃあ、どうするか。僕はファッションというほかの仏師と違う経歴を持ってこの世界に入りました。ドレープの表現や人体構造の知識を活かして、自分にしかできない令和の仏像を目指そうと思います。1000年後、2000年後に、僕が快慶さんを見るような目で見てもらえる仏さまができたらいい